『ミステリマガジン』2006年7月号No.605【創刊50周年記念号】★★☆☆☆

 少し前に600号記念だと思ったら今度は50周年記念である。お祭りは600号にゆずって50周年は比較的地味。せっかくの50周年記念号なのに、記念ならではの「これは」というものがなかった。

「創刊五十周年記念」

「エッセイ大特集」
 なんだかごった煮だなぁ。ミステリマガジンの元連載者・ミステリ作家・ミステリファンの文化人の寄稿。ミステリ作家がみずからのミステリ体験を語ったり、元連載者が連載中のエピソードを語ったり、誰かが『ミステリマガジン』についての思い出を語ったりするのは(出来不出来は別にして)わかるけれど、それ以外のピントがずれてるとしか思えないようなエッセイはなんなんだろう。丸谷才一は『深夜の散歩』ふたたび、てことなんでしょうね。そのへんの事情がわからないとなぜ50周年記念にただの単発の書評なのだ?ということになってしまふ。そういう、わたしにはわからない『ミステリマガジン』との関わりが他の寄稿者にもあるのかもしれない。寄稿者は、丸谷才一浅井慎平石上三登志大沢在昌大和田伸也片岡義男木田元北村薫、清原武彦、柴門ふみ中田雅久野口悠紀雄林海象林家正蔵原りょう山野辺進養老孟司。やはり北村薫が出色かな。クイーンや『虚無への供物』に対する当時の生の発言が楽しい。『謎ギャラ』や『ミステリー館』収録作についての裏話も読める。

「《ミステリマガジン》五十年史――編集サイドから」菅野圀彦
 創刊号のラインナップもすごいけど、それ以上に歴代編集長がとんでもない。都筑道夫、小泉太郎(生島治郎)、常盤新平、太田博(各務三郎)、長島良三、そして本稿執筆者の菅野圀彦〜現在まで。なんなんだこのメンバーは。ハヤカワの歴史がそのままミステリの歴史そのものだった時代が確かにあったのだな。
 「50周年記念」はここまで。
 

「ミステリの話題」
 映画『ポセイドン』と『グッドナイト&グッドラック』紹介。

 『ポセイドン』はパニックものだと思ってたから気にも留めてなかったんだけれど、『ポセイドン・アドベンチャー』のリメイク(というか再映画化)なわけね。『ポセイドン・アドベンチャー』を観たときには、逃げるべきか留まるべきかの判断は五分五分の初期段階でジーン・ハックマンが無理矢理リーダーシップを執るのに違和感があった。そりゃ映画なんだからジーン・ハックマン側の展開になるのは観客にはわかりきってるんだけど、作中人物にはそんなことわからないわけで。アーネスト・ボーグナインがいるだけで絵になった。『ポセイドン』は俳優が小粒になって社会派と特撮に力を入れる、そんな感じかな(想像)。最近のリメイクの特徴として。

 『グッドナイト&グッドラック』の方が興味ある。マッカーシズムと対決したジャーナリズム。本誌今号の「反戦アーティストの再起」にも、イラク戦争反対を口にしただけで再起不能なまでに世論の攻撃対象になったミュージシャンのことが書かれていたけれど、アメリカの大衆ってちょっと(とんでもなく)おかしい。アブナイ。
 

「ミステリアス・ジャム・セッション第62回」霧舎巧
 そういえばこの人も島田荘司の名づけ子だったのだな。
 

「お祝いの夜」ブリジット・オベール/香川由利子訳(Soir de fete,Brigitte Aubert)★★★★☆
 ――今日はヴィーヌの二十五回目の誕生日だ。ケーキ担当はアレックスだ。作業所からくすねてきた蝋燭を突き刺した。招待客は遅れている。物音、ざわめき、ドアの閉まる音。

 狂気の目を通して見た檻の中の犯罪。ポーストの「大暗号」が暗号じゃなくてマジだったような感じである。SFと言ってもいいかもしれない。実際、狂人ではなく異なる文化の宇宙人とか「小さい客」サイドで書けば実際よくあるSFだろうしなあ。ショート・ショートなんだけどけっこうエグいというかグロい。ねっとりからみつくような不気味さだった。
 

「絞首人の手伝い」(第一回)ヘイク・タルボット/森英俊(The Hangman's Handyman,Hake Talbot)★★???
 ――クラーケン島に招待されたナンシーが意識を取り戻すと、招待客は誰もいなくなっていた。遅れてやって来たローガンに請われて、気を失う前のことを思い出した。主人のジャック・フラントが死んだのだ。発作で? では呪いのせいではないのだろうか……。

 『魔の淵』の作者ヘイク・タルボットによるもう一つの長篇。連載されるということは意外と人気あるんだなー。『密室大集合』アンケート上位という期待を割り引いても、『魔の淵』はとんでもない駄作だと思ったんだけど。オカルトやってもギャグにしかならない人だと思った。分載第一回冒頭に描かれた、ひとりっきりで何が何だか思い出せないナンシーの不安な様子は、本格ミステリでもホラーでもなくサスペンスっぽくていい感じだったけど。はたして今後どうなるか?
 

ミステリチャンネルから」
 スカイパーフェクTV!では『ロアルド・ダール劇場』第三集を放映。見たいなぁ……。
 

「GUN講座(中級篇)」小林宏明 最終回 リボルバーも奥が深い
 リボルバー。世界中の人にとってもっとも馴染みのある銃だと思う。銃に詳しくないわたしが読んでも細かい説明までちゃんとわかったし面白かった。もし連載が再開するとすれば、今度は上級篇になるのだろう。ついていけるようバックナンバーなりで初級から勉強せねば。
 

「新・ペイパーバックの旅 第4回=四十六年ぶりの栄光」小鷹信光
 ジョン・エヴァンズの〈栄光(ヘイロー)〉シリーズが論創社から久々に出版されたそうである。『悪魔の栄光』。とはいってもわたしはこの人のことは全然知らなかった。読者がこのシリーズのことを知ってて当たり前というスタンスで書いているので、どんな話なのかもわからない。わかるのはスラングの大家だということだけ。
 

「夜の放浪者たち――モダン都市小説における探偵小説未満 第19回 谷崎潤一郎「黒白(前編)」」野崎六助
 谷崎作品と谷崎について、ものすごくコンパクトに説明してある。これはありがたい。
 

ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか? 第99回 『文学』と『キャラクター小説』」笠井潔
 そらまあ何でもかんでもキャラクター小説にされたらたまったもんではない。とはいえ何でもかんでも自分の論に引き寄せたいのは人間誰しも思うこと。大塚英志笠井潔も。笠井氏も何でもかんでも本格ミステリに関わらせるもの(ときに説得力があり、ときに説得力がない)。
 

「誌上討論/第5回 現代本格の行方」小森健太朗野崎六助
 まだやるのか『容疑者Xの献身』論。小森論は、『容疑者X』というより石持浅海作品を論じていたので新鮮でよかった。『セリヌンティウスの舟』は何かで粗筋を読んで、『被害者を捜せ!』みたいな逆転の発想が面白そうと思ったものだが、改めて紹介された筋を読むとずいぶんと馬鹿らしい。他殺の可能性はない、あるいは他殺だとは思いたくない、という最低限の手続きは踏まなきゃだめだよね。そりゃモラルがないとか言われるわ。
 

「今月の書評」など
 林海象監督探偵事務所5”』が面白そう。どういう作風の監督さんなんだろう。遊び心がおちゃらけになってないことを祈る。堤幸彦はそこらへんがダメだし。設定だけ読むとJDCみたいなのだが、「太陽にほえろ!」「探偵物語」「怪奇大作戦」という具体的な名前を挙げられると説得力がある。

 ジョナサン・キャロル『蜂の巣にキス』、三橋暁氏の紹介文はなんとも思わせぶりで、どんな話なのか実際に読みたいっという気にさせられる。

 レックス・スタウト『手袋の中の手』はいま読んでいる最中。杉江松恋氏が書いているように、「意外なほどに正統派の犯人捜し小説」だ。元祖女探偵ものとかっていうのを期待するとコケる。健気だったり昔の失恋が原因で恋に奥手になっていたりと、今ある女探偵ものっぽい探偵設定ではあるのだけれど、扱う事件が黄金時代のものだからなあ。ウルフものみたいなユーモアもなくて寂しい。

 小玉節郎「ノンフィクションの向う側」で紹介されているのは『ぼくたちも妊娠できますか?』ソーンズ。あまり興味のあるテーマではないのだけれど、無理難題な質問にも何とか科学的に答えようとしているということなので、どんな難問にどんな答えを用意したのか気になるところ。『生協の白石さん』科学版、といった感じか。『生協の白石さん』はおしゃれな変人だが、本書の著者は頼れる兄ちゃんといったところなんじゃないだろうか。

 風間賢二「文学とミステリのはざまで」。『不思議の穴に落ちて』ピーター・エイブラハムズ。この人がこの欄で紹介する本は面白そうに見えない。どうしてこの人は自分がつまらないと思った本を取り上げて「つまらないよ」と紹介するのだろう。面白い本を「面白いよ」と紹介してほしい。
 

「隔離戦線」池上冬樹関口苑生豊崎由美
 最近はあらすじ紹介も解説も、事前に読まないようにしている。とあるミステリ長篇で失敗した経験があるので。ミステリで「映像化不可能」とか「少しでも説明すると勘のいい方には気づかれてしまうので」とか書かれたら、叙述トリックに決まってるじゃんか。まったくもう。というわけで、面白そうな紹介というのはわたしにとっては、解説者でも編集者でもなく、書評家の仕事なのである。池上氏はちょっと純文症候群気味ではあるけれど、よい書評家だと思います。関口氏と豊崎社長も。
 

「冒険小説の地下茎 第75回 ジャーナリズムの冒険」井家上隆幸

「瞬間小説 33」松岡弘一
 「いじわるばあさん」「いじわるばあさんのささやき」「奇跡の少年」「相打ち」
 

「ヴィンテージ作家の軌跡 第39回 レナードの十則(後編)」直井明
 生きたセリフを大事にするからこその副詞嫌いなのでしょうね。
 

「英国ミステリ通信 第91回 P・D・ジェイムズ・インタビュー」松下祥子

「MWA賞の映画誌 第48回=2001年」長谷部史親
 『トラフィック』『ベティ・サイズモア』他。
 

「忠誠」スコット・トゥロー横山啓明(Loyalty,Scott Turow)★☆☆☆☆
 ――モーリー・モレヴァだ。証拠がないため捕まらなかった殺人者。ポールの上司が事件を担当したのだった。わたしが惚れた女は、モーリーの娘だった。

 しょーもない人生模様。
 

エロトマニア真梨幸子(連作短篇『ふたり狂い』第1回) ★★★★☆
 ――川上孝一は、榛名ミサキの小説を読んで驚いた。自分と同じ名前の登場人物が、作者と同じ名前の主人公と恋をしている。どういうことなのか出版社に連絡してみたが軽くあしらわれた。麻衣子は笑い飛ばしたことを後悔していた。被告席にいる川上の右手に、ナイフが握られていたのだろう。

 600号記念の「ミステリアス・ジャム・セッション」で紹介されていた作家さんです。もっと犯罪・風俗小説っぽい作風なのかと思っていたら、意外とトリッキーだったので驚いた。証人も当事者もみーんな変な人ばかり。
 

「ご霊前」辻真先 ★★★★★
 ――柊が死んだ。崖から落ちたのか。崖下で殴られたのか。事故か他殺か自殺か。葬儀の夜は真相解明の場となった。

 劇団「フーダニット」のために書き下ろした台本「ご霊前」を改稿したものだそうです。辻真先らしい無茶苦茶トリッキーな超絶技巧作品。実写化不可能というミステリは多々あるけれど、これは舞台でなけりゃいけません。たいしたものです。
 

「夢幻紳士 迷宮篇 第5回=心臓」高橋葉介
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