『40 翼ふたたび』石田衣良(講談社)★★★☆☆

 7つの短篇を収録した連作長篇。40歳が主人公の青春小説です。比喩でもなんでもなくまさに青春そのもの。石田衣良の若々しい感性で描かれると、40歳とかいいつつまるっきり10代20代の青春小説でした。なんて瑞々しいんだろう。ショージキまわりにこんな若々しい40歳はいませんねえ……。それをいうなら10代20代でもこんなすがすがしい人たちはめったに見ないけど。でも作中のこんな箇所を読んで納得というかショックというか。「新人類といわれた自分たちの世代」。そうなんだ……。40歳=中年というイメージがあったけれど、ちょっと前の若者なんだものなぁ。ヘンな言い方だけど、そっか大江健三郎の17歳より、石田衣良の40歳の方が若いんですね。

 主人公はフリーのプロデュース業を始めた40歳の吉松喜一。プロデュース業といいつつも、作中で描かれるのはほとんどがなんでも相談所的な相談事ばかり。そんな相談事を会社のPRも兼ねてブログで公開したものだから、反響があってますますなんでも相談が増えるというしくみ。このよろず相談所みたいな設定が、本来は殺し屋なのに殺しはしない『シティーハンター』とか、学校よりも学外の場面の方が多い学園もの教師もののドラマだったりとか、そういう一話完結ハッピーエンド物語のような安心して読める爽やかな印象を与えているんじゃないかと思います。現実は重いけど思いは軽やか。だから印象も若々しい。

 相談事自体もとっぴなものが多くて、「真夜中のセーラー服」だとホームページに届いたのがアダルトメールかと思ったら本当のAV女優からのメールだったりとか、「翼ふたたび」だと40歳のひきこもり、「われら、地球防衛軍」だと地球防衛軍の征服を着た園児送迎会社からの依頼だったり、奇抜で飽きない、肩の凝らない応援歌でした。

 きっと40歳前後の人ならむちゃくちゃ感動するんだと思う。そうじゃない人でも、それこそトラブル解決もののドラマ(学園ものでも病院ものでも何でもいいけど)を見るみたいに、気楽に楽しめる。期待したほどじゃなかったって思う人はいても、つまんないと思う人はいないんじゃないかな。甘いけれど質はいいエンターテインメント。惹句あたりからサラリーマン哀歌かと思って、読む前は引き気味だったんだけれど、そんな心配は全然いらない。
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40翼ふたたび
石田 衣良著
講談社 (2006.2)
ISBN : 4062133008
価格 : ¥1,575
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