くれなゐのつゆけき束を捧ぐるは薔薇殺法の君の五月よ(秋谷まゆみ)

 薔薇殺法

 薔薇殺法。

 忍術。格闘ゲームの必殺技。古豪の剣の奥義。

 歌に詠まれているのは、もちろん恋の必殺技だ。だけど「殺法」という言葉からわたしが真っ先に連想したのは忍術だった。忍法薔薇殺法。木の葉隠れのように、両手で印を結び風を巻き起こす(この忍術の名前は木の葉隠れでよかったかとダメモトで辞書を引いてみたら、木の葉隠れという単語が載っていてびっくり。もちろん忍術ではなく、古語(歌語?)なのだが)。

 一撃必殺の殺人技だ。渦巻く花風に幻惑されて、こらえきれずに眩暈を起こす。「つゆけし」とは「露でいっぱいの」とか「湿っぽい」転じて「涙もろい」という意味なのだけれど、ここでは「(水分がいっぱいで)瑞々しい」と捉えてみる。(摘み取った花ならともかく、用意した花束が露でいっぱいというのはあまりぐっとくるものではないと思う)。瑞々しい真っ赤な薔薇の花束。

 一撃必殺の奥義も、冬には使えない。五月。君の独擅場だ。こちらには対抗する術がない。ただただ花に呑み込まれてゆく。

 『薔薇殺法(玲瓏叢書15)』秋谷まゆみ(季節社、1993年)。タイトルから幻想的なものを期待していたのだが、意外と日常的な歌が多くて残念。


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