【スタニスワフ・レム追悼特集】★★★★★
沼野充義・巽孝之・中村融・牧眞司・若島正・関口苑生・石川喬司・西島大介
単なる思い出話なんか誰も書かない。そういう社交辞令的で予定調和な追悼特集なんかではない、読みごたえのある作品論を中心とした、みんなほんとうにレムが好きだったんだなあと心から思える追悼特集。
「スタニスワフ・レムの訃報が、一部の新聞にひっそりと伝えられた」という石川喬司氏の文章に、意外な思いがした。国書刊行会の〈レム・コレクション〉で初めてレムを知った人間としては、「えっ、今ブームなんじゃないの!?」とびっくりしてしまったのだけれど、考えてみると国書刊行会の本を手に取る人の絶対数自体がむちゃくちゃ少ないだろうしなあ。そういう意味ではハヤカワ文庫『砂漠の惑星』[bk1・amazon]の新装発売は大きな出来事なのかも。
今は手に入らない『ロボット物語』などのロボットについて論じた林譲治氏の作品論や、ミステリサイドからお邪魔している関口苑生氏の『枯草熱』論なんかが面白かった。巽孝之氏と若島正氏にはもっともっと驚くようなのを期待してた(100点で当たり前。120点を期待するという理不尽な期待なのだが)。
「My Favorite SF」(第8回)田中哲弥
氏の一冊は名作『トムは真夜中の庭で』。わたしがこの本を読んだのは田中氏よりは早いけれどそれでも二十歳過ぎだったと思う。できればロウティーンのころに読みたかった。
「映画『日本沈没』公開! 果たして日本列島は沈没するか?」
実際に日本が沈没する可能性はあるのだろうか?という疑問を科学的に検証した『日本列島は沈没するか?』が刊行予定。また、『日本以外全部沈没』の映画化も進行中だとか。
「空想科学アニメ『Project BLUE 地球SOS』放送開始直前レビュウ もうひとつの西暦2000年」
なにがいいって「空想科学」っていう謳い文句がいいじゃありませんか。
「この世の終わりは一体どのような形になるのだろうか?」石黒達昌★★★★★
――リタという大きなハリケーンが、また一回り大きくなったらしい。日本人の同僚はホテルを予約してあって、今から逃げるのだという。インド人の技官は窓に打ちつける板をすでに確保してあって、家に籠城するのだという。どちらを選ぶにせよ自分は出遅れているに違いない。根気よくさがしてようやくホテルの予約が取れた。家を出たが、高速の渋滞はほとんど停車に近い。
ヒューストン在住の著者が経験したドキュメンタリーノベル。ウォード・ムーア「ロト」(『地球の静止する日 SF映画原作傑作選』所収)そのままの状況に、驚きに打たれる。核戦争など起きなくともこういうことは起こりえるのだ。カトリーナに襲われたニューオーリンズでは、略奪が横行していたそうです。一方でのんびりしすぎのアメリカ人もごろごろ描写されていて、こういうところはさすが狂牛病に対して気楽に構えているアメリカ人だなと感じる。ニュースのインタビューを見ていたら、「別に大丈夫だろう」「政府を信頼してるからね」のひとことで済ましてしまってました。
「頭上の大地、眼下の星界」小林泰三★★★★☆
――頭上に地面があり、足元に星空が広がる世界。「落穂拾い」のカリテイが命を落とした崩落現場に、奇妙な物体が現れた。「あれを回収しよう」カムロギの提案はばかげていた。操縦方法もわからない。あれだけでかければ燃料も食うし速度もたいしたことはないだろう。空賊どもに狙い撃ちにされる。だがカリテイの死を無駄にしないためにも、秘密を探るためカムロギたちは〈怪物〉に向かった。
小林泰三というと『ミステリーズ!』でイマイチのミステリを連載しているので、あまり期待していなかったのだけれど、なんだい、ミステリなんか書かずにSFやホラーだけ書いていればいいのに。スター・ウォーズみたいな空中戦と謎の怪物をめぐる謎。
「おまかせ!レスキュー」98 横山えいじ
「私家版20世紀文化選録」92 伊藤卓
映画『哀愁のエレニー』、小説『サラマンダー殲滅』、漫画「メダリオン―肖像メダル―」
「SFまで100000光年 36 トビヌシたちの宴」 水玉螢之丞
「トピ主」〜「トビヌシ」をめぐる考察。
「transfer life」撫荒武吉《SF Magazine Gallary 第8回》
無重力の宅配便。いまだに判子なのが(笑)。しかもどてら(?)ですかね、これは。衛星軌道の図版が併載されているので、軌道のどの地点にいるかによって窓の外に見える惑星の大きさが違って見えるかわかるなどなど凝ってます。
「『シンギュラリティ・スカイ』刊行 チャールズ・ストロスが描くポスト・シンギュラリティの世界」
「SFセミナー2006レポート」★★★★☆
「超SF翻訳家対談」主に浅倉久志氏のエピソードを掲載。浅倉氏は『ぼくがカンガルーに出会ったころ』も刊行。ほかに「異色作家を語る〜国内作家編」、「ウブカタ・スクランブル」(ライトノベル作家の文芸アシスタント制度)、「ワン・ヒット・ワンダー・オブ・SF」(一発屋)、「合宿企画」。「異色作家」隠し球として挙げられていた『ムツゴロウの玉手箱』が面白そう。
「MEDIA SHOW CASE」矢吹武・小林治・添野知生・福井健太・宮昌太郎・滝本誠
映画ではテリー・ギリアム最新作『ローズ・イン・タイランド』と宮部みゆき原作『ブレイブ・ストーリー』。パトリック・ジュースキント『香水 ある人殺しの物語』映画化が完成間近だそうです。ゲームは『ニュー・スーパーマリオブラザーズ』
「SF BOOK SCOPE」石堂藍・千街晶之・長山靖生・他
林哲矢氏はランディス『火星縦断』、ニーヴン『リングワールドの子供たち』、ディレイニー他『ベータ2のバラッド』[bk1・amazon]、セルフ『元気なぼくらの元気なおもちゃ』(奇想コレクション)[bk1・amazon]を紹介。『ベータ2』所収の「四色問題」はSF読みが意味不明と言っているくらいだからもう無茶苦茶である。読んでみれば、なにやってんだか……という面白さはある。林氏が巻末の「執筆者紹介」で紹介していた大森望説「『ベータ2のバラッド』はそれ自体が改変歴史SFであるらしい」というのが面白かった。コアなSFファンからすると、これがニュー・ウェイヴの代表作集みたいに思われると困るということなのかなぁ?
石堂藍氏はマコーマック『隠し部屋を査察して』、キャロル『パニックの手』、ローリング『ハリー・ポッターと謎のプリンス』を紹介していました。ただし前二者は簡単に触れた程度。『ハリポタ』をきちんと評論しているのが偉い。
そのほか『幻想文学、近代の魔界へ』[bk1・amazon](『幻想文学』編集長東雅夫氏へのインタビューあり)、パーニア『科学は臨死体験をどこまで説明できるか』(タイトルからわかるとおり、心霊系のものではなくちゃんとした内容であるようです)など。
「小角の城」(第6回)夢枕獏
「罪火大戦ジャン・ゴーレ」(第19回)田中啓文
「SF BOOK SCENE」柳下毅一郎
トマス・M・ディッシュの評論集と、UFO写真集について。
「MAGAZINE REVIEW」〈インターゾーン〉誌《2006.1/2〜2006.3/4》川口晃太郎
「サはサイエンスのサ」139 鹿野司
バイリンガルの話題から臨界期についてまで。なぜ子どものうちから親しまないとネイティブになれないのか。臨界期があるからだそうです。ところが最近の研究によると、薬によって臨界期を何度も起こすことができるかもしれないのだそうだ。でも実用はたぶん不可能でもあるらしい。
「センス・オブ・リアリティ」金子隆一・香山リカ
「科学忍法隠形の術」金子隆一――『ダ・ヴィンチ』2006年7月号のロボット特集ではよくわからなかった「光学迷彩」の仕組みがあっさり説明されていた。そのうえ本当に不可視にすることも理論上では可能なのだとか。
「母親失格という罪」香山リカ――ワイドショー的な人間が大っ嫌いなので、わたし自身は無視するという行動に出るのだけれど、香山氏はえらいのでちゃんと疑問を呈します。
「ファーストコンタクト」井上裕之《リーダーズ・ストーリイ》
「近代日本奇想小説史」(第50回 奇絶・怪絶・壮絶・複雑・難解小説)横田順彌
昼ドラもかくや、というほどのとんでもない無茶苦茶小説・山田旭南『秘密の女』のあらすじ紹介。あらすじ紹介だけでページが埋まってしまうほどの波瀾万丈(構成テキトー)な物語なのである。
「デッド・フューチャーRemix」(第54回)永瀬唯【第11章 きみの血を 第2滴】
はたして『宇宙戦争』の火星人や『吸血鬼ドラキュラ』はどのようにして血を飲んだのか。イメージだけでちゅうちゅう吸ってるものと思っていましたが、なるほどこういう細部の検証から見えてくるものもあるのです。
「ワイオミング生まれの宇宙飛行士(後編)」アダム=トロイ・カストロ&ジェリイ・オルション/浅倉久志訳(The Astronaut from Wyoming,Adam-troy Castro & Jerry Oltion)★★★★☆
――NASAはさっそくアレックスを大学に残らせた。だが、こっちの期待ほどには、ことはうまく運ばなかった。NASAはマスコミを恐れているのだ。怒りにまかせたアレックスの行動は、サンフランシスコに向かうことだった。十八年ぶりに父親と再会した。そしてアレックスの計画はちゃくちゃくと進んでいった。
前号掲載の続き。いよいよアレックスが火星に飛び立ちます。前編同様にマスコミや世間の踊りっぷりやアレックスの機知も面白いのですが、やはりクライマックスは火星探検です。宇宙探検って何のために行くのかな、っていう疑問に、純心に答えてくれました。生きがいとかロマンとか表現しちゃうとクサくてしょーもないですけどね。甘酸っぱい青春色に貫かれていた佳作でした。
『怨讐星域』第二話「ギルティヒル」梶尾真治★★★★★
――ナタリーが十三歳のとき、父親が大統領に就任した。両親とも転校してホワイトハウスで暮らすことを望んだが、ナタリーはカリフォルニアの学園に通い続けることを選んだ。だが送迎には大っぴらに警護がつけられた。海兵隊あがりのジョン・ブッファという黒人が。送迎車のなかで、ナタリーは自分を眺めている男の子の姿に気づいた。ジョンに気づかれないように手を振ってみた。隣家の男の子イアン・アダムスも、やがておずおずとだが手を振りかえすようになった。
2006年5月号からの続き。第一話の前日譚。これだけで長篇を書いてくれてもいいのになぁ。と思うようなボーイ・ミーツ・ガールと終末SFの物語。第一話を読み返してみたけれど、イアン・アダムスは名前しか登場していませんでした。はたしてかれはどうなったのか? 次回以降が楽しみです。そして世代宇宙船の様子も描かれるのでしょうか。それとも物語は惑星上だけで進むのか。宇宙船との邂逅も書くとなると時間的には壮大な物語になりますが、はてさて。
