『幽 Vol.005』特集一・猫の怪/特集二・実話と創作のあいだに★★★☆☆

 創刊以来はじめて、第一特集が作家ではなくテーマによる特集です。「猫の怪」。猫と怪談は相性がいい。と思って期待したんですけどね。。。結論を申せばかなり期待はずれでした。猫怪談なんて手あかがつくほど紹介されているゆえに搦め手から、というのはわかるのですが、搦め手なら搦め手で、もう少しテーマを絞ってほしかった。猫というキーワードが共通しているだけの、まとまりのない特集になってしまっておりました。

紙芝居「猫三味線」
 紙芝居師による妖怪幽霊落語。魔夜峰央の怪猫漫画。橘外男の猫怪談長篇『私は呪われている』の冒頭。猫神様を祀る島に渡る怪談紀行。なんだかメインが猫紀行ではなくて、スタッフの怪奇体験になっとるぞ。で、猫怪談ブックガイド。

「旧耳袋」5 京極夏彦
 ――『耳嚢』の現代実話怪談風再話。というか、『耳嚢』自体が実話の聞き書きということになっているのだから、これこそが本来の現代語訳かもしれない。京極夏彦の文体はもともと「やがて。」や「すると。」など接続詞で文章をぶつ切りにして改行することが多いのだけれど、こと本篇にかぎっていうと、そのテクニックがいかにも実話怪談風で味がある。文章というより語り。「やがて。」と言ったあとで聴衆の反応を確かめるかのようにしばらく間をおく感じ。うまい。

「鬼談草紙」5 小野不由美
 ――「マリオネット」で書かれている「人間が飛び降りたとき」の音というのがものすごく生々しい。このインパクトがあまりにも強すぎて、本来なら充分インパクトのあるはずの怪異自体がかすれてしまう。「踏切地蔵」は物語としてよくできていると思います。ちゃんと起承転結あるっていうか。

鬼物語」山白朝子
 ――鬼の民話風幻想譚。鬼というのがなにやら神話的な存在に描かれている。妖怪というより『イリアス』とかギリシア神話なんかの巨人。そこに少女小説風のストーリーがからまり、「ここではない日本」「いまもかつても存在しなかった日本」を形作っている。少女小説風というのはつまり、耽美系妖怪漫画のような雰囲気である(うまく説明できない……)。

「テツの百物語」有栖川有栖
 ――鉄道マニアが寄り集い、鉄道にまつわる百物語を語る。サイトの掲示板に投稿された怪談が九十五話あったから、残り五話で百だという設定です。由緒正しい鉄道怪談から実話怪談風物語や心霊オカルト写真まで。百物語を百話まで語っちゃいけないという常識を(鉄道マニアであって怪談マニアではない)かれらは知らない。

「我々は失敗しつつある」恩田陸
 ――これは実話怪談というか実話マニアを扱った怪奇小説

加門七海×平山あや
 ――見える人たちの「確実に人間じゃなかった」とかいうようなコメントを聞くたびに、それが人間だった方が怖いよねぇ、と思うのでした。

 加門七海が「インタビューを終えて」で、こういう感性を持つ人というのは「アイドルの追っかけに近い気がする」と述べていて、なるほどと頷く。「アッチの世界の方々も『あの子、熱心だなあ。この間もライブに来ていたよ?』と目を掛けられてくれて、運が良ければ、お話しできたりしちゃうのだ。」だそうである。卓見かも。

「日本の幽霊事件5『魔が呼ぶダム』」小池壮彦
 ――実際の怪奇事件を追ったノンフィクション(?)なのだけれど、実話怪談=実話かどうかはともかくあくまで実話怪談風の文体を持った作品、というのと比べると、どうしてもトンデモっぽさがちらつく。

「怪談実話5『記憶/異変』」高原英理
 ――「実話怪談」ではなく「怪談実話」なのは、実話かどうかはともかく実話怪談風の文体であることこそ命の「実話怪談」に対して、実話怪談風ではないけれど実話なんだよ、ということなのでしょう。実話として江戸時代の書物を紹介するあたりに著者らしさを感じる。

「怪談ブックレビュー」
 ――『日本霊異記』『プロフェシー』『怖い絵』『奇現象ファイル』『アムネジア』『夜市』『べっぴんぢごく』『イギリス恐怖小説傑作選』『トーテム』『ホラー・ジャパネスクの現在』『怪談 民俗学の立場から』『怪談の学校』『夢幻紳士 逢魔編』『魔障ヶ岳 妖怪ハンター』。

「英国幽霊案内」5 ピーター・アンダーウッド/南條竹則
 ――あらすじ紹介ていどのエピソードが多い中で、「ギャラシールズ、セルカークシャー、スコットランド」はまるまんま怪談だった。

「作家探訪/怪談生活の達人」稲生平太郎
 ――さきごろ『アムネジア』を刊行した稲生平太郎氏のインタビュー。『アムネジア』だけじゃなくいろいろ聞いてます。

「ある生長」日影丈吉
 ――なんだかわけのわからないもの、を描いた掌編。たしかに日影丈吉ぽくないかもしれない。異色作家短篇集とか筒井康隆とか。

「怪談文学史逍遙」5 東雅夫
 ――怪談研究会か、鏡花会か?

「怪談映画を読む」5 山田誠二
 ――『怪談夜泣き燈篭』というタイトルとはほとんど関係のない、どろどろの愛憎絵巻。あらすじだけだと面白そう。

「怪談考古学4『虫ノ巻』」
 ――蛇も蛙も病気もみーんな虫。なので虫の怪異も幅広い。

「日本の古き神々を訪ねて」『出雲大社』『美保神社』岩崎眞美子
 ――「怪談考古学」は「虫」だし、高原英理「怪談実話」には龍や蛇の入った石の話が出て来るし、今号の裏テーマは「蛇」なのか?
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