『今昔続百鬼―雲』京極夏彦(講談社文庫)★★★★★

 多田克己氏と村上健司氏を名前と外見のモデルにしたこのシリーズは、石燕の創作妖怪がモチーフとなっています。創作なんだから当然、創作される以前の歴史は背負ってない。ゆえに京極堂シリーズでは確かに使いづらいのかなぁという気もします。サブタイトルに「多々良先生行状記」とありますし、ノベルス版では「冒険小説」と角書き(タイトルの下にあるから角じゃないですね、なんと呼ぶのでしょうこういうの。サブタイトルというほどでもないし)がありましたが、そんな感じの妖怪珍道中といった趣の作品です。ミステリとしてはラッキー名探偵もの(そんなジャンルがあればですが)。

 「岸涯小僧」泥田坊」「手の目」「古庫裏婆」の四編。

「岸涯小僧」

 岸涯小僧は子供のころ読んだ水木しげるの妖怪事典にも載っていて、水木バージョンの方がソフィスティケートされていて記憶に残っている。石燕の岸涯小僧はわりと地味で、これではまるで毛むくじゃらのおっさんではないか。

 『画図百鬼夜行』には「河童」も載っています。本篇で河童の民俗的背景とミステリをからめてしまうと、今後「河童」でミステリを書くときに困る、と思ったわけでもないのでしょうが、河童とはまるで関係のない真相が待ち受けています。初めて『メフィスト』でこれを読んだときは、さすがにこれはないだろう、と思ってこのシリーズを読むのをやめてしまったのですが、その後の「泥田坊」「手の目」「古庫裏婆」ではそれなりに妖怪にからんだ事件と真相が描かれていました。

 もともとキャラクター好きなわけではなくて妖怪好きゆえに京極堂シリーズを好きになったわたしとしては、蘊蓄だらけのこの「多々良先生行状記」は美味しいご馳走みたいなものです。

 京極堂シリーズで「おとろし」などの絵解きをされても、それは石燕の絵の絵解きであって、もともとの妖怪の正体に関する絵解きではないでしょう、と思って少し不満だったのだけれど、この「多々良先生行状記」で扱われるのは石燕の創作妖怪ばかりなので、思う存分絵解きを楽しめる。

 わたしは国書刊行会の『画図百鬼夜行』は読んでいないのだけれど、あれには本書で明らかにされる絵解きも解説として載っているのだろうか? そうだとしても本書の価値が落ちるわけではないが。

「古庫裏婆」

 「泥田坊」とか「手の目」の正体は普通の人は知らないわけで、だから謎解きものとしても楽しめたわけだけれど、本篇は「婆」というくらいなんだから婆ァが犯人に決まっている。じゃあつまらないかといえばそんなことはない。とんでもない婆ァです。あの人たちのカメオ出演もあって、四篇中いちばんサービス精神旺盛な一篇。
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今昔続百鬼−雲
京極 夏彦〔著〕
講談社 (2006.6)
ISBN : 4062754207
価格 : ¥1,020
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