「ミダスの仮面」チェスタートン/若島正訳(『ミステリマガジン』1998年10月号No.511【アガサ・クリスティーと埋もれた逸品】より)★★★☆☆

「ミダスの仮面」チェスタートン/若島正(The Mask of Midas,G. K. Chesterton,1935?)★★★☆☆
 ――小さな店に一人の男が立っていた。脱獄の手助けをした疑いがもたれている。その男を眺めていた三人の男がいた。警察署長グライムズ大佐がめずらしく大衆の面前で「これから店を捜査するつもりだ」と店主に告げたので、二人の部下は驚いた。大佐が判事に捜査令状をもらいに行っているあいだも、部下の刑事は当惑していた。大佐はこっそり行動する人だったからだ。「『これから店に踏み込むぞ』なんてわざわざ伝える人じゃないんです」「その答えはですね」ブラウン神父が答えた。「店に踏み込むつもりはなかったってことですよ」

 ブラウン神父もの未発表作。ブラウン神父ものというと、わりと直訳調の創元推理文庫版中村保男訳で馴染んでいたのだけれど、若島訳は中村訳以上にもってまわった直訳調でした。いや実はチェスタトンの凝った文章を直訳して意味の通る日本語の文章にするというのは意訳するより難しいのだと思うのだけれども。なんにしろ文章が頭に入らない……。

 チェスタトンの真筆なんだから当たり前なんだけれど、随所にいかにもチェスタトンらしいもってまわった言い回しがあって、読んでいて嬉しくなってにたにたしてしまった(^^)。

 「器械のあやまち」をさかさまにしたようなメインの真相はちょっと理屈っぽすぎる印象だが、神父が真相に至るきっかけとなった言動や、真相の手前までの神父の推理なんかは、さすがチェスタトンという感じの逆説ロジックが楽しめる。
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