『月館の殺人(下)』佐々木倫子・綾辻行人(小学館IKKI COMIX)★★★★★

 ようやくようやく下巻が出ました。そして読みました。

 祖父に会うため夜行列車〈幻夜〉に乗車した空海。そこで起こった殺人事件。鉄道マニアばかりを狙う連続殺人の一つなのか。犯人は? 動機は?

 『月館の殺人』といい『びっくり館の殺人』といい、悪ノリしてるなぁ。『月館』の方は「やかた」じゃなくて「だて」なんだけどもさ。

 わたしは綾辻ファンというよりは佐々木倫子ファンなんだけれど、でもこと本書に限っては〈ミステリ〉を期待してました。

 さすが本職だけあって細かいところが考えられてます。アリバイとか真犯人とかはまあ何というか、ミステリを読み慣れている人にとっては、驚くというよりは“なるほどこうきたか”と感心・納得するような手堅いものです。手堅いといってもわりと大技なんだけど。

 心理的に殺人を犯せるかどうか(テツかどうか)を推理する場面なんて、ミステリでしか通用しないような(それだけにまた魅力のある)ロジックが魅力的でした。ちゃんと鉄道マニアという設定が活かされてるんですねえ。

 いちばん感心したのは叙述トリック(?)。叙述トリックというのは絵と相性がよくないものだと思うのですが、これは見事です。少なくともこの手のトリックは文章よりもむしろ絵の方が効果的かも。小説でぱっと思い浮かぶのは『嗤う伊右衛門』かなあ。

 どうして最後だけ紙の色が変わっているのかと思ったら、そうか“ここは解決編だから先にめくっちゃ駄目だよ”マークなのだ。初めは、予算が足りなくてここだけ安い紙を使ったのかとか馬鹿なこと考えてしまった。

 好きになれない人たちばかり出てくるのが綾辻らしくていい。
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