『風の谷のナウシカ』全7巻 宮崎駿(徳間書店)★★★★☆

 ひさしぶりに読んだ。やっぱりクシャナがかっこいいな。最後にただのいい人っぽくなっちゃうのが残念だけど。『もののけ姫』って私的には評価低いけど、本書で否定(肯定?)したことを改めて肯定しようとしたのかな、と思った。

 前に読んだときは、映画版には出てこない土鬼皇帝のインパクトが強くてそればかりが記憶に残っていたので、巨神兵ヒドラとか結末なんかもすっかり忘れていた。

 地球の環境システム自体を新たに人工的に作り出してしまったわけで、原生環境の破壊という点では、これはもうやっていることは核戦争と変わらないと思う。絶滅動物のクローンを作ることが果たして破壊した環境を再生することになるのか、はたまた今ある生態系を新たに破壊することになるのか、というのに似ている。地球を中心にして考えれば、これはもうすでに滅んでいる。人工的に再生したところで、それは破壊の上書きにしかならないでしょう。

 でも人類を中心にして考えるなら、答えは簡単には出せないなー。問題は、未来に生まれるべく待ち受けているのが、“元の人類”ですらないということで。腐海に対応した遺伝子を清浄な空気に対応した遺伝子に操作する、というだけではないらしい。争いのない世界。それを政治的にや社会的に実現するのではなく、どうやら遺伝子レベルに組み込んでしまうということのようです。

 これはやはり感情的には反発するでしょう。体質が操作されるだけならいい。ところが感情まで操作されてしまうのだから。“人類”の尊厳を守るためには、滅びるしかないという矛盾。

 いや何よりも生きていること、種の保存こそが最優先されるべきだという考えもあるだろうし。

 いずれにしてもナウシカ一人で決めるべきではないという意見もある。

 それでもまだなんというか、未来の人類が人工優勢種族みたいなものに設定されているからまだわかりやすい。感情的にはナウシカに賛同しやすくなっています。ある意味では著者の逃げとも取れる。

 これがもし、感情も操作するのではなく、体質だけを書き替えるという設定だったなら、問題はいっそう複雑になっていたことと思います。

 復讐と部下の命以外は眼中になく、そのためには街一つも滅ぼしてしまうクシャナに魅力を感じてしまうのはなぜなんだろう。クシャナをかっこいいと思えるわたしは、ナウシカの選択をためらいなく受け入れてしまえるのでした。
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