『S-Fマガジン』2007年01月号(609号)【ドラッグSF特集】★★★★☆

 今月号は【ドラッグSF特集】。『スキャナー・ダークリー』公開記念ということなんだろうけど、小川隆氏の解説を読むと、ドラッグSF自体も最近ふえているのだそうです。
 

「『スキャナー・ダークリー』誌上公開&監督インタビュウ
 先月号の映画紹介欄で紹介されていて気になっていた『スキャナー・ダークリー』。ディックがどうこう、内容がどうこう、よりもまず動いている画を見てみたい。デジタル・ロトスコープ映画。
 

「ライトと受難者」ジョナサン・レセム浅倉久志(Light and the Sufferer,Jonathan Lethem,1996)★★★☆☆
 ――弟のドンが拳銃を見せた。ランドルのヤクと現金を奪って逃げるとき、はじめてぼくたちは受難者に気づいた。これまでに二度こうしたエイリアンを見たことがあるが、二回ともむこうはトラブルに巻き込まれた人間のあとをつけていた。

 視野狭窄的にしかものごとを見られなくなるという典型的なヤク中人間の話かと思ってたんだけど、いや、このラストのドンの告白は甘ちゃんでしょう。きれいごとすぎ。まぁほろりときちゃうんだけどさ。受難者。一見すると死神のようにも思えるこのエイリアンに、人間が勝手に意味づけをして振り回されるのも、ちょっとストレートすぎるなぁと感じた次第です。
 

「二人称現在形」ダリル・グレゴリイ/嶋田洋一訳(Second Person, Present Tence,Daryl Gregory,2005)★★★★★
 ――そのドラッグは“ゼン”といった。S先生のおかげで、それがどうやってテレーゼを殺したのかはよく理解できた。“わたし”はこの部屋にいたことはないし、“彼女”はもう帰ってこないのだが、それをテレーゼの両親にいちいち説明するのに疲れてしまう。

 あたたかいのが逆に残酷なラスト・シーンに鳥肌が立つくらい感動しました。ドラッグSFといっても、たいていの作品はSF小説というよりただのドラッグ小説なんだけれど、これはちゃんとSF小説でした。作中に書かれている脳に関する説明が面白い。「ドラッグ」であるからこそ、以前の人格に戻すことが「治療」なのだという言い分にも一定の理屈が成り立ってしまうんだけれど、やっぱり「Second Pearon」も「第二の人格」であることには変わりないんですよね。

 ほかにも邦訳がないか、短篇集は出ていないかとあわてて検索してみると、著者のホームページ上で無料で作品が読めるようです。『S-Fマガジン』バックナンバーで紹介されていた「夜の庭師」を面白そうだとわたしも自分で書いてたし。
 

「ドラッグSF特集 評論【小説・映画】」小川隆柳下毅一郎
 新興宗教的なドラッグ観というのは、現実にはどうであれ、やはりもう古いという気がする。ドラッグにあるのは可能性ではなく、不安・不安定・揺らぎ。バーチャル・リアリティに触れられていたけれど、ようはドラッグってSF小説上の一つの手段にすぎない。
 

「デイドリーム・ネーション」ポール・ディ・フィリポ/小川隆(Daydream Nation,Paul Di Filippo,2005)★☆☆☆☆
 ――ケンのiドリームにころっとだまされて、長いこと気づかずじまいだった。でも、三か月後に、ケンが誘惑に使ったiドリームが既製品だとわかったときにひどい終わりを迎えることぐらい、わかっていてもよかった。

 風刺なのか能天気なのかわからないけれど、どちらにしても単純すぎる。「空想」と「それを組み立てる能力」だけで人を判断するという、かなりコワイ人たちについての物語です。まあ「見た目」だけで判断するとか、「才能」に惚れるとかいうのと変わりはないのかもしれないけれど、相当キモチワルイ。風刺だとしても「見た目」を「空想」に移し替えただけの話なので、最初に言ったように単純すぎるのが瑕です。
 

「熱力学第一法則」ジェイムズ・パトリック・ケリー/小川隆(The First Law of Thermodynamics,James Patrick Kelly,1996)★★★☆☆
 ――アシッドなら何回も経験していたけれど、これまで名前まで忘れたことはなかった。でもさほど気にならない。ブルー・マジックのおかげでスペース・カウボーイという魔法使いに変身できたいまはずっと幸福だった。

 これはSFというより古き良き(?)ドラッグ小説に近い。でもまあ、こういう意識が飛び飛びになったようないかにもラリったような構成っていうのは、インナー・スペースSFとかでよくつかわれる手なので、古き良きSFっちゃあSFでもある。

 ここまでで【ドラッグSF特集】はお終い。
 

「My Favorite SF」(第13回)冲方丁
 ジョーゼフ・キャンベル+ビル・モイヤーズ『神話の力』。ノンフィクションです。
 

「おまかせ!レスキュー」103 横山えいじ

石井聰亙監督インタビュウ」

今敏監督インタビュウ」

「SFまで100000光年 41」アバターに似た人
 検索エンジンについて。図書館に行かずとも、資料の確認がネットで済んじゃうってな話から、検索エンジンの進化〜妄想。
 

「快岸 KAIGAN」木村タカヒロ《SF Magazine Gallary 第13回》
 「快岸」は「海岸」。連なる白石、何かの欠片。貼り合わせたんじゃなくて、一枚一枚はがしたような皮膚。
 

「伝説のロボットアニメ復活 ジャイアントロボ起動」

「「ぼくらの小松崎茂展」レポート」北原尚彦

「MEDIA SHOW CASE」渡辺麻紀鷲巣義明・添野知生・福井健太・丸屋九兵衛・編集部
 今回はこれというものがなかった。ロボットイベントの様子は気になったけど。もっと詳しく紹介してほしかった。
 

「SF BOOK SCOPE」石堂藍千街晶之長山靖生・他
森見登美彦『きつねのはなし』が出た。

◆〈ダーク・ファンタジー・コレクション〉も第三弾アンソニー・バウチャー『タイムマシンの殺人』が出ました。訳者は白須清美氏なので今回は安心でしょう。まったく未知の“作家”なので読むのが楽しみ。

石堂藍氏が「絶対に読んで損しない」と言い切ったテリー・ブラチェット『魔女になりたいティファニーと奇妙な仲間たち』が気になるところ。

◆千街氏と笹川氏が二人とも紹介しているジョン・ブラックバーン『闇に葬れ』。よくわからないがとにかく普通じゃない作品のようなので気にはなる。

ガルシア・マルケス全小説』が刊行中。また読みたくなっちまうよ。全小説ってことは、新潮社以外から出版されていた小説も復刊されるのかな。amazonで調べたら、意外と生きている本があって驚いた。『百年の孤独』『予告された殺人の記録』『エレンディラ』以外は手に入らないと思っていたよ。

李成柱『国家を騙した科学者』事件って、韓国の恥をさらしましたよね。。。黄の嘘を暴いた番組が世論の圧力で打ち切られるって、国(民)としてあまりにも幼い。まぁ小泉劇場とか自己責任論とかもおんなじレベルかもしんないけど。
 

「魔京」朝松健(第四回)★★★★☆
 ――額に浮かぶ汗を感じて、平清盛は眉を寄せた。(これは夏の暑さではない。炎の熱だ)。御社が燃えていた。清盛は絶叫した。「『京の核』がないッ! 源氏一党の仕業であろう」

 清盛です。文覚も出てきました。怨霊といえばこの人、の、崇徳院も登場。伝奇っぽくなってきたなぁ。今回は理屈はひとまずお休みしてまずはストーリーが進みます。
 

「罪火大戦ジャン・ゴーレ」(第24回)田中啓文

「デッド・フューチャーRemix」(第58回)永瀬唯【第11章 きみの血を 第6滴】
 ソ連ではボグダーノフがありえないようなことをやっていましたが、一方でアメリカではやはりこれはこれでありえないアメリカ流無頓着を経てアメリカ流合理化「血液銀行」に至る。なんだか前回のソ連もそうだけど、アメリカの歴史もほとんど笑い話だよなぁ。。。
 

「私家版20世紀文化選録」97 伊藤卓
 ハリイ・ハリスンテクニカラー・タイムマシン』、ロバート・エヴァンズ『くたばれ、ハリウッド』、映画『くちづけ』

「SF挿絵画家の系譜」(連載10 石原豪人(後篇))大橋博之
 

「サはサイエンスのサ」143 鹿野司
 前回の続き。RNAとDNA。
 

「家・街・人の科学技術 01」米田裕
 ワンセグについて。何かと話題ですが、スポーツが見られない(見てもボールが見えない)ってのは無意味だ。パソコンでワンセグが見られるUSBチューナーとかも発売されているけど、だったら普通のチューナー買うだろ、って思ふ。
 

「センス・オブ・リアリティ」金子隆一
◆「今はいつですか?」金子隆一……以前に鳥類とか爬虫類の分類についての話があったけれど、今回は地質年代の話。

◆「逃げてもいいんだ」香山リカ……学校や職場だけが人生だと思い込む人たちについて。
 

「仕方がない腕なんです」久道進《リーダーズ・ストーリイ》
 

「近代日本奇想小説史」(第54回 漱石が認めた『猫』の続篇(前))横田順彌
 たとえ真似っこでも、よくできた『猫』ものというのは面白い。しかしそれよりも、漱石自身が序文を書いてしまったというところが奇想なのです。
 

「SF BOOK SCENE」加藤逸人
 今回はSF/ファンタジイ長篇。どれもこれも面白そうだぁ。ウィルキー・コリンズ・ブームってのはわからんが。

 マイクル・コックス『The Meaning of Night』。ゴースト・ストーリイのアンソロジストが書いたデビュー作。文体から小道具までヴィクトリア朝の小説を模したとのことで、こういう凝った作品って大好きです。

 こちらもデビュー作、ダイアン・セターフィールド『The Thirteenth Tale』。あらすじを読むかぎりではたいしたことなさそうなんだけれど、「怪しさ面白さという点ではすこぶるつき」とのこと。

 ほかに、竜が登場するナポレオン戦争ナオミ・ノヴィク『Temeraire』、英国産モンスターで固めたコミック・ホラーポール・マーズ『Never the Bride』など。
 

「MAGAZINE REVIEW」〈アシモフ〉誌《2006.6〜2006.9》深山めい
 「金星労働三原則」というアイデアマイクル・スワンウィック「ティン・マーシュ」(Tin Marsh)のほか、ティム・プラット「ありえざる夢」(Impossible Dream)は、映画への愛情にあふれているというところだけは面白そうだし、ロバート・リード「全八話」(Eight Episodes)は宇宙からのメッセージというところが面白そう。
 

大森望のSF観光局」01 短篇集ブームの光と影
 何やらいろいろ新連載が始まりましたが、そうか1月号なんですね。しかし11月に新年号ってのもなあ。最近嬉しいSF/ファンタジー/ミステリ短篇集ブームについてです。ソノラマ文庫と翻訳の質について。これだけブームになればあれれ?な本が出て来るのもやむを得ないところ。これはさすがに下訳をそのまま出してるんですよねえ……。まさか本人じゃああるまい。大学教授ならともかく、プロの翻訳者で下訳つかってるなんて思わなかった。
 

「乱視読者のSF短篇講義」若島正(第3回 H・P・ラヴクラフト「宇宙からの色」)
 ラヴクラフトが苦手なわたしにとっては、ラヴクラフトが言葉で表現できないものを言葉で表現しようとすることに意識的な作家だったということがまず意外でした。B級のカリスマ、ってイメージがあったからね。SFというイメージもなかったし。
 

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