『ミステリマガジン』2007年01月号No.611号【追悼特集 ミッキー・スピレイン】★★★★☆

 今月号はミッキー・スピレイン特集。まったく期待していなかった。ところがどっこい、これがめっぽう面白い。本物のB級の面白さ。『ミステリマガジン』掲載作って隙間狙いのB級と、水準作レベルのクライム/ストリート系の現代ミステリが多いんだけど、王道のB級ってこんなに面白かったのか、と。ランズデールの『プレスリーVSミイラ男』原作とあわせて、下品でコアな娯楽作が満喫できた号でした。
 

「追悼特集ミッキー・スピレイン/エッセイ」鏡明・松坂健・小山正
 小山正氏の「怪優ミッキー・スピレインに想う」が面白い。『刑事コロンボ』に出てたんだ(^^;。
 

「アレグザンダー公爵」ミッキー・スピレイン/三川基好訳(The Duke Alexander,Mickey Spillane)★★★★★
 ――ひとりにしてくれれば十分だったんだ。ところがポーターのやつがおれにつきまとい何でもしてくれた。仕方がないから一ドルやったら、ポーターは「ありがとうございます、公爵様」と言った。なんて列車だ。

 詐欺師(?)に間違われたマイク・ハマー。美人と知り合いになるチャンスを逃さぬために、誤解を解かずにわざわざトラブルに巻き込まれます。そりゃたしかにシリアスなハードボイルドや何かからすると衝撃的だったんだろうけど、ハリウッド映画に毒されてしまった今となっては、マイク・ハマーって意外とフツーじゃん、と思ってしまいました。
 

「殺す男」ミッキー・スピレイン横山啓明(The Killing Man,Mickey Spillane,1989)★★★★★
 ――ドアを開いて一瞬、足を止めた。どこかおかしい。秘書のヴェルダが壁際に崩れ落ちているのが見えた。おれの部屋では男が死んでいた。おれは医者と警官のパットに電話をかけた。

 事件解決と復讐のために真相を追うマイク・ハマーは相当かっこいい。よっぽどアニメ的なヒーローものでもない限り、個人が組織に立ち向かって勝てるわけがないのだけれど、これはけっこうリアルな範囲内で戦っていると思います。もっとはちゃめちゃな話かと思っていたので、つくづく意外。
 

「暗い路地」ミッキー・スピレイン/加賀山卓朗訳(Black Allay,Mickey Spillane,1996)★★★★★
 ――マルコス・ドゥーリーが撃たれた。マフィアの若い連中がファミリーを乗っ取ろうとしたとき、ボスに依頼されて遺産の大半を隠したのがドゥーリーだった。

 今度は宝探し。殺された友人のために隠し場所を探すマイク・ハマーはやはりかっこいい。エンタメのひとつの見本でしょうね。読後何も残らず且つつまらない作品がいかに多いことか。忘れられたっていい。読み捨てられたっていい。とにかく読んでいるあいだを圧倒的に楽しませてくれるのだ。
 

「『私のハードボイルド』とミッキー・スピレイン小鷹信光
 内容どうこうよりも、シグネット・ブックスの書影を初めて見て、ああポケミスのデザインってこれの真似なのか、と知った。

 ミッキー・スピレイン特集】はここまで。

 

「新春特別鼎談 現実とフィクションのあいだで――海外ミステリの愉しみ方」清原武彦・松尾邦弘・湯川武★☆☆☆☆
 『ミステリマガジン』のやることはわけわからん。50周年記念号のエッセイ特集もひどかったが、今回は輪をかけて意味不明。この人たちの鼎談を誰か読みたいと思うか? 専門家ならではの視点で読み所を語ってくれるんならともかく、無邪気な一ミステリファンとして話をされても……。いや、ほんと無邪気。きっと『ミステリマガジン』の読者は、もっとマニアですから。
 

「ミステリアス・ジャム・セッション第68回」薬丸岳

「瞬間小説 39」松岡弘一
「千慮の一矢」「恋は災厄」「巌流島の決闘あれこれ」「復活」「夫婦」

「英国ミステリ通信 第97回 キャシー・ライクス・インタヴュー」松下祥子

ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか? 第105回 二〇世紀精神と言い落とし」笠井潔
 中野重治を引用することで「言い落とし」の技法の問題から「二〇世紀精神」〜「二一世紀精神」へと話を展開していくあたりが巧いなあと、ヘンなところに感心してしまった。戦前の共産党というのは「われわれが権力をとったら、あいつは死刑だ」的なところであって、「二〇世紀精神」の持ち主だからこそそういう倒錯的な発想にはまり……という時点で、それはもはや二一世紀的なんじゃないの、と思ってしまうけれど、その先には「『恥知らず』な自分を、それとして感じることのできる主体さえ消失している」という恐ろしい状態が待っているのでした。
 

「今月の書評」など
クリストファー・プリースト『奇術師』が映画化されるそうだ。少し考えて映画化しろよ……。

『タイムマシンの殺人』、『10ドルだって大金だ』が刊行されました。クラシックからはもう一冊、クリストファー・スプリッグ『六つの奇妙なもの』も。

クレオ・コイル『名探偵のコーヒーのいれ方』は前からタイトルが気になっていた。

セオドア・ロスコー『死の相続』は、「怪作という言葉に反応する人はもちろん必読」とあるのでぜひ読みたい。

小玉節郎「ノンフィクションの向う側」◆
 リンカーン大統領暗殺犯を追ったノンフィクションジェイムズ・スワンソン『マンハント。といっても、リンカーン暗殺犯は「“初めから”知れている」のだそうで、犯人は誰かを推理する切り裂きジャックものとかではなく、当時の捜査の模様と犯人の逃走経路を追った作品。これがなかなか、意外と知られていない事実があって面白そうである。

◆風間賢二「文学とミステリのはざまで」◆
 リンダ・キルト『怖るべき天才児』
 

「隔離戦線」池上冬樹関口苑生豊崎由美

「ヴィンテージ作家の軌跡 第45回 アンブラーの『暗い国境』」直井明
 ありゃりゃ、レナードじゃなくなっちゃったよ。アンブラーかぁ。

「冒険小説の地下茎 第81回 文革狂気の十年」井家上隆幸
 『北京の檻』

「夜の放浪者たち――モダン都市小説における探偵小説未満 第25回 金子光晴『芳蘭』」野崎六助

「日本映画のミステリライターズ」第5回(小国英雄(2)と「幽霊列車」)石上三登志

「新・ペイパーバックの旅 第10回=カーター・ブラウンのUSAデビュー」小鷹信光
 

「ババ・ホ・テップ」ジョー・R・ランズデール/高山真由美訳(Bubba Ho-Tep,Joe R. Lansdale,1994)★★★★★
 ――エルヴィスはベッドのリクライニング・ボタンを押し、ゆっくりと起きあがった。くそっ! どうしてキング・オブ・ロックがこんなふうに老人ホームにいるんだろう。それにミスタ・ハフではなく、ミスタ・プレスリーと呼んでほしいね。もう身を隠すのはやめたんだ。

 エルヴィスは実は死んでいなかった。名声を捨てるため、そっくりさんと入れ替わっていただけなのだ。というだけならまあよくある改変歴史ものなんだけれど、なんと本篇ではその(自称?)プレスリーが、ホームの老人たちの魂を守るために自称ケネディ元大統領と協力して古代エジプトのミイラと対決するという、やりたい放題の話なのだ。ホームズは死なず。となれば、プレスリーケネディでこの手の話が今まで書かれていなかったのがむしろ不思議。だってヒーローなんだもの。
 

「絞首人の手伝い」(第六回)ヘイク・タルボット/森英俊訳(The Hangman's Handyman,Hake Talbot)

「夢幻紳士 迷宮篇 第11回=罪」高橋葉介

「翻訳者の横顔 第85回 翻訳の翻訳は?」菊地よしみ
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