『赤髯王の呪い』ポール・アルテ/平岡敦訳(ポケミス1790)★★★☆☆

「赤髭王の呪い」(La Malediction de Barberousse,1995)★★★☆☆
 ――1948年ロンドン。エチエンヌは故郷アルザス在住の兄から届いた手紙に驚愕する。ある晩、兄が密室状態の物置小屋の中を窓から覗いてみると、16年前“赤髯王ごっこ”をしたために呪いで刺殺されたドイツ人の少女エヴァの姿があったというのだ。エチエンヌは友人から紹介された犯罪学者ツイスト博士に、当時の状況を語り始めるが……。(裏表紙あらすじより)

 デビュー作だからという理由からか、中篇といっていい長さゆえなのか、一ネタだけで最後までひっぱるため、あまりにもあっさりしすぎています。むしろもう少し削って短篇にした方が切れ味はよかったかも。

 警察署長が呪いを信じている時点でそれはおかしいだろって思うし、語り手が精神的に不安定であることからもなんとなく真相は見えてしまう。(それを論理的に組み立てられるかは別問題だけど)

 これを、それだけフェアに丁寧に作られた作品だからわかってしまうのだ、と考えるのか、隠すのが下手な駄作、と考えるか。

 全体としては悪くないんだけれど、あまりにもあっさりしすぎてる。少しずつ真相が小出しにされるのだけれど、そのどれを読んでも“おお、やられたっ”とはならないんですよね。事件の描写にしても、真相を明かす語り口にしても、もっと大げさに盛り上げていいと思う。探偵も地味だし。

 ミステリ的な部分はけっこうセンスがあると思います。あとはそれをどれだけ万人の楽しめるミステリ小説にできるかですね。

 わたしは個人的に本格ミステリを二つのタイプに分けています。1.実際に推理して読む人が好むような「読者を騙すタイプ」、2.センス・オブ・ワンダーを求めて読む人が好む「読者をびっくりさせるタイプ」。

 1と2どちらも兼ね備えていれば言うことはないのですが、どちらか片方のみだった場合、好みで2の「びっくりさせる」タイプに甘くなります。

 本書は「読者をびっくりさせるタイプ」としてはいまいちなのですが、「読者を騙すタイプ」すなわち犯人当て小説としてはけっこういい出来なんじゃないかと思いました。
 

「死者は真夜中に踊る」(Les Morts Dansent la Nuit,2000)★★☆☆☆
 ――百五十年前の先祖マリオンは悪魔のような女だった。全裸で首飾りダンスをしている最中、毒を飲まされて死んだ。そして今、叔父が毒殺された。やがて納骨堂が荒らされ、棺の中にはダンスをしているように折り重なった死体、周りには首飾りのガラス玉が散らばっていた。体面を重んじる父はこの醜聞に耐えられず発作で死んだ。

 確かにある種の人にとっては、死より耐え難いこと、というものがあって、それを与えることで復讐を遂げるというのはわかる。でもそれにしても迂遠な。トリックのためのトリック。首飾りに二重の意味を持たせるあたりはうまいけれど。
 

ローレライの呼び声」(L'Appel de la Lorelei,2000)★★★★☆
 ――ハンス・ゲオルクは不幸にも、魔女ローレライの呼び声に抗しきれなかった。誰かが「ローレライ」のメロディを奏でました。裏口からまっすぐ北に歩いた足跡が残っていた。そこが凍った池の水面であることも、うえを歩いたら危険だということもわかっていたはずなのに。

 単純なトリックが実に効果的に使われていて、好きな作品です。やはりこういう絵になるトリックって好きなんですよね。雪の中を一直線に池に続いている一筋の足跡。自殺したのか、ローレライの歌声に憑かれたとしか思えない状況です。単純なだけに今までにも様々な形で利用されてきたトリックだとは思いますが、絵的なイメージの美しさという点で本篇はなかなかの名作です。
 

「コニャック殺人事件」(Meurtre a Cognac,2000)★★☆☆☆
 ――公衆の面前でフィリップ・フォーという“魔術師”のトリックを暴いたせいで、スダールは公然とフォーから脅迫された。おまえは罪の源となったものにより、命を落とすだろう……。やがて“猫と魚”という言葉を遺してスダールは命を落とす。

 これは日本語で読んでは本格ミステリとして成立しないのが残念なところ(まあ成立はするだろうけれど重大なヒントが訳されずに終わるわけで)。でもどっちにしろたいした出来じゃない。魔術による殺人というつかみは素晴らしいけれど、やっぱり見せトリックの方が真相より魅力的なんだもの。本を読むものを毒殺する“あの名作”のトリックが見せネタとして使われていてくすりとできます。
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