『ミステリマガジン』2007年03月号No.613【2006年翻訳ミステリ回顧】★★☆☆☆

 相変わらず『ミステリマガジン』のやることは……。なんでこんなどうでもいいアンケート企画で値段が倍なんだよ……。まあ毎月買ってない人にとっては読み逃した作品のチェックに役立つんだろうけど。編集長が替わるらしいので来月号以降に期待。
 

「ハードボイルドよ、どこへ行く?」逢坂剛・井家上隆幸・小鷹信光鼎談
 三人ともハードボイルドが好きなんだな(^−^)。ひしひしと伝わってくる。いい鼎談です。来月号には春樹訳『ロング・グッドバイ』冒頭が先行掲載されるそうだし、盛り上がりますねえ。
 

「ミステリアス・ジャム・セッション第70回」水原秀策
 

イエローストーンの鼠賊」C・J・ボックス/高山真由美訳(Pirates of Yellowstone,C. J. Box,2005)★★★☆☆
 ――チェリーの隣人は「バイオ・パイレーツ」だった。イエローストーンの温泉からは珍しい微生物が採れる。政府がそれを研究している。違法に持ち出すのがバイオ・パイレーツだ。ヴラディとエディはバイオ・パイレーツから微生物を奪って、金と引き替えにしようと考えた。

 へっぽこが計画した行き当たりばったりの犯罪計画。いかにもアメリカの現代ミステリっぽくて新味はないのだが、エミネムファンのエディが取引場所にもエミネムの格好で出かけるから全然その筋の人に見えなくて――というのが笑える。チェコ人であるヴラディがどこにでもいるアメリカ人のチンピラみたいに描かれているせいで、アメリカの大自然に対するチェコ人の違和感と一体感というのがいまいち伝わってこない。だから最後も意味不明。
 

バグジー・シーゲルがぼくの友だちになったわけ」ジェイムズ・リー・バーグ/加賀山卓朗訳(Why Bugzy Siegel was a Friend of Mine,James Lee Burke,2005)★★★☆☆
 ――ぼくとニックが好きなものは二つしかなかった。野球とヨーヨー。それがきっかけでギャングのベニー・シーゲルと知り合った。うちの隣のダンロップ家に遺産が転がり込んだ。原始人に核兵器を与えるようなものだ。その日からダンロップ家の専制が始まった。

 これもよくあるパターン。誰かの作品に、たまたま通りかかったギャングが父親のふりをして……とかいうようなのがあったと思うけど、そんな感じ。ちょっと趣のあるタイプではあるが。もっと小説がうまい、とかもっとアイデアがぶっ飛んでる、とかじゃないと、よくある話どまり。
 

「テキサス・ヒート」ウィリアム・ハリスン/花田美也子訳(Texas Heat,William Harrison,2005)★★☆☆☆
 ――その男と最初に会ったのはカーラだった。妙にハンサムで背が高い。カーラとメアリー・ベスは不動産会社を経営していた。その男ブーマー・スミスは、内気で無骨でちょっと変わった雰囲気も持った男で、目を合わせようともしなかった。ガリ勉高校生タイプ。カーラに気があるに違いない。

 これまたお決まりのパターンだなあ。見え見えじゃん。だんだん腹が立ってきた。どうもアメリカの現代ミステリって、安易な社会小説とか家族小説とか、そんなんだよね。背景にどんなハードでシビアな現実があったとしても、出来上ったものはといえば同好会小説みたいなノリ。日本で言えば(否定的な意味で)「中間小説」に当たるものも多い。その名の通り中途半端。アイデアもなければ、筆力も描写力もない。どちらも兼ね備えているんじゃなくて、どちらもない。
 

「クラック・コカイン・ダイエット」ローラ・リップマン/三角和代訳(The Crack Cocaine Diet,Laura Lippman,2005)★★★☆☆
 ――男と別れたばかりだから、パーティへ行くためにあたらしいドレスが必要だった。でもドレスを買う前に、体重を落とす必要があった。即効性のあるダイエットじゃなくちゃ。モリーがひらめいた。「コカイン!」

 ダイエットのためにコカインをやるという発想が馬鹿々々しくておかしい(^^;。翻訳ものを読んでいるから笑えるんであって、こういうぷっつんギャルは周りにいてほしくはないけど。もっとアホっぽい一人称の方がよかったんじゃないのかな? それだとあざといのか。
 

「「日本映画のミステリライターズ」第7回(高岩肇(2)と「神阪四郎の犯罪」)石上三登志

「ヴィンテージ作家の軌跡 第47回 1930年代のアンブラー(2)」直井明

「英国ミステリ通信 第99回 「スティーヴン・キング・インタヴュー」松下祥子

「冒険小説の地下茎 第83回 警察の組織悪に挑む小説」井家上隆幸

「夜の放浪者たち――モダン都市小説における探偵小説未満 第27回 金子光晴『芳蘭』(後篇)」野崎六助

「瞬間小説 41」松岡弘一
 「瓜二つ」「あとかたづけはいりません」「文豪」「鬼ごっこ
 

ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか? 第107回 現実世界と虚構世界の蝶番」笠井潔
 「客観性がないからアンフェア」な『アクロイド殺し』について、客観性が保たれているかどうかというのは、長い小説の歴史上で生じた約束事に縛られているにすぎない、というのは目から鱗の指摘。
 

 ルブラン『水晶の栓』、ジェフリイ・フォード『ガラスのなかの少女』が今月ミステリ文庫から発売!
 

「今月の書評」など
アメリカではトマス・ハリスの『Hannibal Rising』が刊行されたそうです。レクターの少年時代だって( ´,_ゝ`)。笑うしかない。

◆CDではディオンヌ・ワーウィック『マイ・フレンズ・アンド・ミー シングス・バート・バカラックが、バート・バカラックのカバーでよさげ。

杉江松恋氏がマイケル・イネスを二冊紹介。『アララテのアプルビイ』は読みたいんだよなあ。珍作?怪作?

◆古山裕樹氏が『鼻のある男 イギリス女流作家怪奇小説選』を紹介。大手じゃないところ(鳥影社)から出ているもんだから、発売と同時に注文したのに取り寄せに数週間かかったよ。クラシックらしい。

小池啓介氏は論創社よりルブラン『戯曲アルセーヌ・ルパン』、カー『幻を追う男』を紹介。戯曲とラジオドラマ。どちらも微妙だがファンにはたまらない。カーはまだ代表作にも未読があるのでそちらを優先するとして、ルブランは買ってしまった。楽しめるんだろうか……?

小玉節郎「ノンフィクションの向う側」◆
 アガサ・クリスティーの晩餐会』。なぜか先月号に引き続き食べ物続き。

◆風間賢二「文学とミステリのはざまで」◆
 ディドロ『運命論者ジャックとその主人』ディドロによる『トリストラム・シャンディ』。
 

「隔離戦線」池上冬樹関口苑生豊崎由美
 池上冬樹豊崎由美が正反対のこと言ってるよ(^^)。打ち合わせたのかな(ドキドキ)。盛り上げようとしてるのかな(ワクワク)。
 

「新・ペイパーバックの旅 第12回=カーター・ブラウンの自伝」小鷹信光

「正義の味方」小川勝己(連作短篇“狗”第23回)

「翻訳者の横顔 第87回 苦しきことのみ多かりき」長島良三
 言わずと知れた、メグレやルパンなどのフランス・ミステリ翻訳家さんです。

「絞首人の手伝い」(第八回最終回)ヘイク・タルボット/森英俊訳(The Hangman's Handyman,Hake Talbot)
 

「2006年翻訳ミステリ回顧」
 いやしくも作家という肩書きを持つ方々なら、アンケートといえども一工夫ある文章を書いてほしいね。ほんとに単なるアンケート書いてどうするんだよ、てな文章が多すぎる。人気作家であればあるほどこの時期は、おんなじようなアンケートづくしでうんざりなんだろうけどさ。

◆「私のベスト3」――佳多山大地氏が久方ぶりに独特の視点でコメントしてくれているのが嬉しいかぎり。チェスタトンの「飛ぶ星」はゴーゴリ「査察官(検察官)」の設定を裏返しにしたものだそうです。

◆「ジャンル別2006年総まとめ」――杉江松恋氏による『マンアライヴ』訳文評、「村崎敏郎訳〈ブラウン神父〉シリーズなんてものを読んできた世代なら耐えられるレベルのはず」てのが笑った(^^)。言われてみればそうなんですよ。何年も刊行され続けている文庫のなかには、いまだにそんなレベルの旧訳がごろごろしてるし。
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