『キングとジョーカー』ピーター・ディキンスン/斎藤数衛訳(扶桑社ミステリー)★★★★☆

 舞台設定はとっぴだけど、中身はけっこう普通のミステリだった。というか、日本人のわたしには、架空の英国王室だろうと現実の英国王室だろうと、過去の王室だろうと現在の王室だろうと区別がつかん。ゆえに普通に思えてしまう。

 ただ、殺人のアリバイに関していえば、やはり“架空”の世界という設定がなされているからこそ説得力を持ち得るネタだとも思った。英国王室であれどこであれ、現実世界という設定でこれをやられたらきっとシラケたろうと思う。

 また、王室を舞台にしているからこそ、事件の舞台を限られた範囲内に定めることができたわけで、現代を舞台にクラシック・ミステリをやろうとするときの問題点を一風変わった方法でクリアしているという点も見逃せない。(普通だったら嵐の山荘ものとかになるのかねえ)。

 そうはいっても山口雅也の一連の作品のように、その作品世界でなくては成立しないというほどではないので、けったいな怪作を期待していると裏切られる。むしろ丁寧で模範的なミステリなのだ。

 物語自体は架空世界を舞台にした少女の成長小説として楽しめた。よほどのクラシック本格マニアならともかく、今読むならむしろそういった成長小説・家族小説としての側面の方がアピールするんじゃないかと思う。なにしろ、何度も言うけどミステリとしてはあまりにオーソドックスなのだ。そして、ただ単に“よくできたミステリ”では満足しないすれっからしの自分がいるのである。

 好奇心旺盛で聡明な王女、悪戯好きの兄王子、一見頼りなさげな父王、控えめながら芯の強い母后、頼れるお姉さんのような秘書、王室の生き字引であり王女の精神的支柱である育児係のダーティ。リューインの〈探偵家族〉シリーズでも、オーツの家族小説でも何でもいいけど、彼らの織りなす日常と家族の問題がただただ面白いのである。

 現実とは異なる家系をたどった英国王室。王女ルイーズは、いつもと同じ朝食の席で、父王の秘密に突然気づいてしまう。しかしその朝、とんでもない騒動が持ちあがった。食事の皿に、がま蛙が隠されていたのだ! こうして、謎のいたずら者=ジョーカーの暗躍がはじまった。罪のないいたずらは、ついに殺人に発展。王女は、ジョーカーの謎ばかりか、王室の重大な秘密に直面する……CWAゴールド・ダガー賞2年連続受賞の鬼才が、奇抜な設定と巧緻な謎解きを融合させた傑作、復活!(裏表紙あらすじより)

 『King and Joker』Peter Dickinson,1976年。
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キングとジョーカー
ピーター・ディキンスン著 / 斎藤数衛訳
扶桑社 (2006.11)
ISBN : 4594052592
価格 : ¥880
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