『世界は村上春樹をどう読むか A Wlid Haruki Chase』柴田元幸・沼野充義他(文藝春秋)★★★★☆

 言っちゃ悪いが、文化的に成熟していない国というのは、おしなべて読みも浅い。佐藤亜紀氏が日記で『テヘランでロリータを読む』を批判していたけど、本書みたいなのを併せ読むと、しょうがないのかな、という気はする。まだまだこれからの国なのだ。それに『文壇アイドル論』で指摘されていたとおり、村上春樹はもともとゲーセン論者と相性がいい。文化未発達国の村上春樹というのは、浅い読みを誘発するダブルパンチを抱えているのだ。

 それはともかく、面白かったのは村上春樹の受け入れられ方、ブックデザイン、翻訳について、だった。

 いくつかの例外もあるとはいえ、村上春樹の受け入れられ方というのは各国おしなべて変わらない。「高度成長後の幻滅・挫折感・喪失感」が基本ライン。中国では「そのいっぽうで村上作品は、若者が経済成長にともない急速に普及した都市文化を享受するマニュアルにもなっています」という発言には大爆笑してしまった。一昔まえの日本人、の鏡像なのかもしれないが。

 『海辺のカフカ』についてコメントを求められたチェコの翻訳家曰く、プラハ人、チェコ人として思うに、カフカの小説は「幻想」ではなくて「事実」なのです。チェコのお役所というのは、まさにカフカの小説そのままなんですから(笑)」なんてのも、話半分としても、こっちの常識をくるっとひっくりがえしてみせてくれる。

 カバーデザインがまたお国柄が出ていて面白い。勘違いニッポン全開なものから、いかにも最近のペーパーバックっぽいものまでさまざま。幻想っぽいのが好きなわたしとしては、デンマークの『スプートニクの恋人』と『ノルウェイの森』が好きだった。

 そして翻訳談義。なかなか日本語→外国語の翻訳論なんて読む機会がないけれど、苦労はどこでも一緒なんだなあという印象。翻訳についての談話はそのまま春樹論にも踏み込みがちで、ちょっと得した気分。
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