なにゆえロマンス小説特集?と思ったのだが、早川書房でもロマンスを刊行し始めたからその宣伝ということらしい。だから掲載されているのは文字通りのロマンス小説。デュ・モーリアのゴシック・ロマンスを掲載とか、クリスティのロマンスっぽいのを掲載とかいう、ミステリ・ファン向けのひねりの利いたサービスはない。読むのは昔サスペンスかと勘違いして新潮文庫のサンドラ・ブラウンを買ったとき以来。
「『美しい嘘』を刊行して」リザ・ウンガー
「ロマンス小説のタトル・モリ・エージェンシー迫田氏が語る」
「対岸のロマンス」関口苑生
まぁおおかたの『ミステリマガジン』読者にとっては関口氏と同意見でしょう。
「ロマンス専門古書店〈アゼリア〉店主、ロマンスを語る」前田紅子・若竹七海
若竹氏らしい、ミステリにも目配りしたうえでマニアックなロマンス小説案内です。
「ロマンス小説翻訳夜話」中谷ハルナ
「ミステリ系ロマンスの法則」東茅子
「囮捜査」リンダ・フェアスタイン/高橋知子訳(Going Under,Linda Fairstein,1997)☆☆☆☆☆
――女性警官は、チャップマン刑事と組んで強制猥褻事件の捜査に挑む。
何がすごいって、次に掲載されている腹肉ツヤ子のパロディ漫画とまるで変わりがないところがすごい。
「愛の街角」腹肉ツヤ子★★★★★
ロマンス小説の傾向と対策をコンパクトにまとめたパロディ漫画。本誌掲載ロマンス小説を読めばわかるが、パロディというか、このまんまなのだ。
「受け継がれた殺人」スーザン・クリナード/仁木めぐみ訳(Murder Entailed,Susan Krinard,2004)☆☆☆☆☆
――レディ・オリヴィア邸で殺されたのは誰からも愛された男だった!
いちおうのところは魔術が存在している世界を舞台にした謎解きものだが、異世界ミステリというよりは、どちらかと言えばご都合主義に近い。
「ひと言の返事」シャーレイン・ハリス/林啓恵訳(One Word Answear,Charlaine Harris,2005)☆☆☆☆☆
――ヴァンパイアだったいとこの死を告げる、深夜の訪問者とは?
意外な真相でもなければお洒落な結末でもない。気位が高いだけの女が自分の思い通りにする話。これを悪意で書いていれば面白いのだが、たぶんお洒落なつもりで書いてるんだろうな……。
「各社担当編集者が明かすロマンス人気の秘密」
【ロマンス特集】はここまで。
◆森英俊氏の通販洋書店だよりによると、イギリスのファンジン『CADS』51号に、セイヤーズとバークリーのラジオ対談が完全活字化掲載されたそうです。一部は『創元推理』に訳載されていたやつですね。
「話題の医療サスペンス『ノーフォールト』の著者、岡井崇氏に訊く」
「MYSCON8潜入記」
「映画『ストーン・カウンシル』監督インタヴュー」
ジャン=クリストフ・グランジェの映画化作品監督インタビュー。
「新・ペイパーバックの旅 第16回=ハーラン・エリスンの特別料理」小鷹信光
前号に引き続きハーラン・エリスン。未訳作品のあらすじがちょこちょこと紹介されています。
「ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか? 第111回 恣意的解釈と探偵小説的論理性」笠井潔
「今月の書評」など
◆内容と何の関係もないのにホームズを枕に未訳作『Ghostwalk』を紹介する日暮雅通に失笑。ニュートンと錬金術師という組み合わせは面白そうだが、あらすじ紹介だと現代サスペンスっぽいので微妙。
◆今月紹介の映画は『レベル・サーティーン』。十三の命令を実行すれば賞金が。途中で止めれば賞金は全額没収。かくして無茶な命令が下されるという話。命令の内容はかなりエグそうだが、単純なアイデアだけに面白そうでもある。
◆今月はまだ購入していない作品で、これはと思うのがなかったなぁ。すでに購入済みで順番待ちのプリースト『双生児』、ミッチェル『ウォンドルズ・バーヴァの謎』、『ジーヴスと朝のよろこび』、くらいだものなあ。
◆小玉節郎「ノンフィクションの向う側」◆
『ひとりぼっちのジョージ』ヘンリー・ニコルズ[bk1・amazon]。タイトルだけなら内容を確認もせずに黙殺していたと思う。でもこれ、プチ感動ものとかではなく、ガラパゴス諸島ピンタ島にただ一頭残されたゾウガメを追ったノンフィクション。ゾウガメというよりも、ゾウガメをめぐる人間の利害の物語なのだね。
◆風間賢二「文学とミステリのはざまで」◆
クリストファー・プリースト『双生児』[bk1・amazon]。これはもういろんなところで紹介されているんだけれど、なるべくまっさらな状態で読みたいから紹介は極力読まないようにしている。たぶん読むのは一、二か月後になってしまうだろうなぁ。。。
「隔離戦線」池上冬樹・関口苑生・豊崎由美
池上氏はふたたびチャンドラーについて。関口氏の文章を読んで、そうか、そう捉えればミステリって隆盛なのかと目から鱗(って言ってもねぇ……)。ほんと惨めじゃないですか。
『藤村巴里日記』第04回 池井戸潤
――タバタヒロアキという画家について調べてご覧なさい……山瀬から告げられた名前を手に、耀子はふたたび佐田の研究室を訪れた。
今回は、現実の藤村がいかにアホアホ人間だったかというのが簡単に紹介されています。タバタヒロアキという名前が新展開といえば新展開だけれど、今回は目立った展開はないかな。
「日本映画のミステリライターズ」第11回(渡辺剣次(1)と「死の十字路」)石上三登志
「夜の放浪者たち――モダン都市小説における探偵小説未満 第31回 谷譲次『上海された男』(前篇)」野崎六助
「ヴィンテージ作家の軌跡 第51回 アンブラーの短篇集」直井明
「冒険小説の地下茎 第87回」井家上隆幸
「英国ミステリ通信 第103回 オックスフォードのサラ・ウォーターズ」松下祥子
サラのインタビューを一部掲載。間もなく刊行予定の『夜愁』はこれまでとは違い一九四〇年代が舞台とのこと。映画『逢びき』やグレアム・グリーン『情事の終り』なんかの影響もあるんだとか。
「真珠は困りもの」レイモンド・チャンドラー/木村二郎訳(Pearls are a Nuisance,Raymond Chandler,1939)★★★★☆
――「ウォルター。ミセス・ペンラドックの真珠が盗まれたので、あなたに捜してもらいたいの。犯人はわかってるのよ。ここで使っていた運転手。おととい、突然にやめたわ。一度なんか、わたしにキスをしたのよ」「えっ、そうなのか」ぼくはそのヘンリー・アイケルバーガーのホテルに向かった。
一人の作家は一人の翻訳者が訳すのがいいと思っていたのだけれど、こういうのもいいかな、と思えました。コミカルな原作にぴったりとはまっています。コミカルではあっても、いろいろな人たちの優しさとかプライドとかは健在。でこぼこコンビの友情がいい味出してます。もともとへらず口には定評があるチャンドラーだけに、ギャグのセンスも意外といい線いってると思う。次号は「事件屋稼業」を新訳予定。ハヤカワ版「怯じけついてちゃ商売にならない」ではなく、主人公名マーロウ変更後の創元版の邦題が採用されているということは、いよいよマーロウものの新訳?
「翻訳者の横顔 第91回 I am a Resident of Jet City」横山啓明
「デジャヴュ」真梨幸子(連作短篇『ふたり狂い』第4回)
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