いつもの海外受賞作特集かと思ってたけど、そういえば今年は日本で開催されるんですね、ワールドコン。というわけで【ワールドコン特集】は、候補作を二号にわたって訳載予定。これを読んで投票するもよし。
「きみのすべてを」マイク・レズニック/内田昌之訳(All the Thing You Are,Mike Resnick,2006)★★★☆☆
――宇宙軍警備隊員の「わたし」は、男たちが自ら命を投げ出すかのように思われる複数の事件を調査するうちに、ある共通項に気づく。彼らは元兵士で、かつて同じ惑星で作戦行動をともにしていたのだ。
まあ目新しくはないけれど、各地で連続して起こる自ら死に飛び込んでゆく男の謎というのはけっこう魅力的。安心して読める安定したエンタメSF。
「八つのエピソード」ロバート・リード/中村融訳(Eight Episodes,Robert Reed,2006)★★★★☆
――不評のうちに、わずか五話で打ち切りとなった、SFTVドラマ「小さな世界の侵略」は、その後、全八話を収録したDVDが発売されると、カルト的な人気を博すようになった。だが、その制作者の実態は、杳として知れなかった……。
架空のテレビドラマを紹介するという形の作品。SF的メッセージの込められた後半よりも、むしろドラマのダメダメっぷりが紹介される前半の方が楽しめたりする。好みの問題だろうけれど。とんでも本やバカミスでも読んでるように素直に笑える前半。宇宙や生命に関する可能性を、そ知らぬ顔で大法螺でも吹くごとく静かな筆致で描く後半。これって『S-Fマガジン』2007年01月号のMAGAZINE REVIEWで紹介されていて、面白そうだと思ってたやつだ。
「同類」ブルース・マカリスター/嶋田洋一訳(Kin,Bruce McAllister,2006)★★★★☆
――十二歳の少年は殺人を依頼するため、アンタロウ人数人にアプローチするが、やっと返答をもらえたその異星人は、凄腕の殺し屋だった……。
これはある部分では『銀河鉄道999』だね。“戦士”と“家族”と“友情”の物語。このラストの文章って見覚えがあると思っていろいろ考えたんだけど、記憶にあったのはどうも斎藤隆介の「文覚」のラストらしい。似てると言えば似てるけどそれじゃあ関係ないな。いやまあ、人にとって大事なものとは、っていう点では共通するものの。
「見果てぬ夢」ティム・プラット/小川隆訳(Impossible Dreams,Tim Pratt,2006)★★★★☆
――映画に対する知識と愛情では、誰にも負けないと自負しているピートは、ある日、何度もとおっているはずの道で、見慣れぬビデオ・ショップを発見する。しかも、そのDVD棚には、存在するはずのない作品が並んでいた……。
これも2007年01月号のMAGAZINE REVIEWで紹介されてて面白そうだった話。ティム・プラットは2006年06月号に「魔女の自転車」が掲載されていました。名台詞の引用で終わるというのは一つのパターンだけれど、これは引用したうえで世界設定をうまく利用していて上手いなと思わされた。ささいなことだけれど、たったこれだけでもだいぶ好印象。とにかく映画好きなら涎が出る作品タイトルを眺めているだけでも楽しい。ファンタジーだけど細かい辻褄の部分までちゃんと考えられている(まあそれほど大げさなものでもないが)ところもいい。
「ノヴェラ部門候補作レビュウ」
「宇宙の壁」ポール・メルコ、「10億人のイヴ」ロバート・リード、「傾斜」ウィリアム・シャン、「ウェアリイ卿の帝国」マイクル・スワンウィック、「ジュリアン」ロバート・チャールズ・ウィルスンの5篇。
あらすじを読んで面白そうだったのは「10億人のイヴ」と「ジュリアン」。
「10億人のイヴ」は、ある男子学生が女子寮ごと異次元に飛ばされて、そこで新世界をもたらした云々というヘンな作品。
「ジュリアン」は、文明が衰退した二十二世紀のアメリカで、貴族のジュリアンと平民の“ぼく”が、本好きという共通項から親しくなっていくがやがて……という作品。
「夜明け、夕焼け、大地の色」マイクル・F・フリン/小野田和子訳(Dawn, and Sunset, and the Colours of the Earth,Michael F. Flynn,2006)★★★☆☆
――ある初秋の朝、千人近い乗客を乗せて、シアトルの港を出港した大型フェリーは、奇妙な霧とともに、姿を消した……。
忽然と消えた船をめぐるさまざまな人たちの証言を、いろいろな視点から描いた作品。始めのうちこそ、それぞれの関係者が見たそれぞれの消失事件を、ドキュメンタリー・タッチで描いているものの、途中からはフォーラムだか掲示板だかがあるかと思えばポシャった論文、舞台台本など、さながら文体実験の様相を呈し始める。読み終えて振り返ると、なんだかこの三つだけ浮いてます。意図的なのか、書いてる途中で飽きたのか。その後はまた普通の小説タッチに戻るだけに、?。小説全体にばらばらにまぶすとかじゃなく三篇かたまってるからなあ。
【ワールドコン特集】はここまで。
「My Favorite SF」(第19回)田中啓文
荒巻義雄『神聖代』。
「円城塔インタビュウ」円城塔×大森望+塩澤編集長
本書に第3章が掲載されている『Self-Reference ENGINE』[bk1・amazon]の著者、円城塔のインタビュー。インタビュアーが大森望だということもあってか、「A to Z Theory」を読んで感じるノリそのままな感じが伝わってくる。このインタビューだけを読んでも面白い。
「A to Z Theory」円城塔(『Self-Reference ENGINE』より第3章)★★★★★
――A to Z定理は、三世紀ほど前の世界におけるある短期間、何らかの意味で最も重要な定理だった。ある意味で。もしくはすべての意味で。現時点では初等数学的にすら正しくないこの驚異の定理は、単純に間違っているという事実のために、省みられることがほとんどない。
なんだこりゃ。面白いぞ。曰く、島田雅彦絶賛。曰く、レムの論理とヴォネガットの筆致。曰く、レムが書いた『銀河ヒッチハイク・ガイド』。曰く、ボルヘスとユアグローとテッド・チャンを足して5で割るくらい。曰く、『涼宮ハルヒ』。曰く、北野勇作。冒頭からして人を食ってるもんなあ。Qって何だ(^_^;。架空の数学定理をめぐる、人類の壮大な馬鹿騒ぎ。
「ゼロ年代の想像力 「失われた十年」の向こう側 01」宇野常寛 ★★★★★
これは面白そうな連載が始まったなあ。(大雑把に言えば)今さらセカイ系なんて言ってる場合じゃないよ、というなかなかスルドイ批判から幕を開ける。「スルドイ」とは言ってもわたしは現状を知らないので、正確に言えば「スルドそう」だけど。そこらへんは次回から詳しく論じられるらしい。
宇野常寛という名前は寡聞にして知らなかったので確認してみると、主宰しているという「第二次惑星開発委員会」発行の『PLANETS』が「サブ・カルチャー総合誌」であるよし。なあるほど。小説とか評論とかの立場からではなく、いわば当事者の側からの声なのか。
何となくではありますが、2007年5月号掲載の日本SF評論賞選考会でひかわ玲子が言っていた、“『エヴァ』世代の人間の、同世代オタクたちへの憎悪”に対する答えのような気もしますね。どうなるんだろう。楽しみ。
それと最近気になっているのが、オタク系のアニメやゲームにどっぷり浸かっている体育会系オタク。彼らに言わせると、自分たちはアウトドアだからオタクではないらしい。はたしてオタクとは嗜好のことなのか、生態のことなのか。はてさて。そこらへんも明らかになってくれるとうれしい。
それともう一つ思ったのが、『ミステリマガジン』でも話題になっていた本格ミステリ論争。東浩紀の次を担う若い知性を輩出できていないというサブカル批評界とまったく一緒で、この本格ミステリ論争(の遠因の一部)というのも、ミステリ界に笠井潔の次を担う若い知性が輩出されていないということなんじゃないだろうか。笠井氏はそれでも先頭を切って「脱格系」を評価しようとしているけれど、ほかの人たちはいまだに“十年前の笠井潔”を後追いしているものね。
「大森望のSF観光局」07 イベントの地平線、2007
結婚記念ファンジンの話。SF関係者の結婚記念なのだかから、当然執筆者も豪華になるのだ。ほしい。それから、各種対談裏話。桜庭一樹は『赤朽葉家の伝説』のアウト・テイク「毛毬はいかにしてレディースを引退し漫画家になったか」話。豊崎由美×牧眞司では豊崎氏の小心ぶりが紹介。小鷹信光×若島正の裏話もちらほら。
「SFまで100000光年 47 情熱と後悔の地図」水玉螢之丞
「部下をつかまえて『卵形の描き方』を小一時間レクチャーする上戸」という表現が水玉螢之丞(^_^)。
「Station」長谷川正治《SF Magazine Gallary 第19回》
お、こりゃまた見るからにSF。どう見てもSF。ゴリゴリのSF。
「加藤直之原画展レポート」/p>
「異星人SFの魅力を味わう『擬態―カムフラージュ―』刊行」
「MEDIA SHOW CASE」渡辺麻紀・鷲巣義明・添野知生・福井健太・飯田一史・天野護堂
◆今回は映画が盛り沢山。『ゲーム』『セブン』のデビッド・フィンチャーの最新作『ゾディアック』。この監督のはったりじみた造りは好きじゃないが、ジェイク・ギレンホールが主演であるらし。スパルタ軍とペルシャ軍の大バトルを描いたグラフィック・ノベルの映画化が『300』。映画館の大大画面で観たい気にさせられる作品。俳優が監督した映画なんて、ましな部類であってもせいぜいが「いい人」と同じ意味での「いい映画」程度のものが多いと思っていたのだが、今度のメル・ギブソン作品『アポカリプト』は凄いらしい。マヤを舞台にした歴史絵巻だ。
「SF BOOK SCOPE」林哲矢・千街晶之・長山靖生・他
◆気になるのは、梶尾真治『ムーンライト・ラブコール』[bk1・amazon]。新作ではなく再編集短篇集であるためおまけみたいに紹介されているが、風野氏も言うとおり、「最近カジシン」を読み始めた人にはおすすめだろう。
◆〈プラチナ・ファンタジイ〉や〈奇想コレクション〉などはここで紹介されなくても当然チェックしているけれど、不定期刊行なので忘れたころに発売されることもあるから困る。そんな久々の〈プラチナ・ファンタジイ〉新刊はクリストファー・プリースト『双生児』[bk1・amazon]。今から読むのが楽しみだ。〈奇想コレクション〉の方はパトリック・マグラア『失われた探険家』[bk1・amazon]。読んだことのない作家だが、「〈異色作家短篇集〉の新たな一冊にもふさわしい」そうなのでこちらも楽しみ。気になっていながらも手を出しかねているのが〈新しい台湾の文学〉。新刊は台湾SF、張系国『星雲組曲』[bk1・amazon]。〈プラチナ・ファンタジイ〉などのような信頼できるシリーズなのかどうかもわからないので、2500円はちょっと考えてしまう。群像社という見慣れぬ出版社から刊行されたのがヴィクトル・ペレーヴィン『チャパーエフと空虚』。ロシア文学の専門出版社らしい。「ある種のSFのありかたに非常に近い」ということなので、この作品自体はSFではないようだ。
◆千街氏が三津田信三『首無の如き祟るもの』を紹介。パズラーとしてはかなりの出来だが、ホラー・ミステリとしてはちょっと、だそうです。
◆牧眞司氏は〈光文社古典新訳文庫〉よりブッツァーティ『神を見た犬』[bk1・amazon]を紹介。〈異色作家短篇集〉や〈奇想コレクション〉に収められても違和感のない作家とのこと。スタージョンやビッスンが好きならブッツァーティも、とのことである。
◆長山靖生氏は東浩紀『文学環境論集』を紹介。講談社BOXから発売なんですよねぇ。今後のオタクのバイブルになるのかなぁ。
◆森山和道氏がマーティン・リース『今世紀で人類は終わる?』を紹介。
「魔京」朝松健(第七回)
「罪火大戦ジャン・ゴーレ」(第29回)田中啓文
「千年曲輪」(霊峰の門 第十話)谷甲州
「おまかせ!レスキュー」109 横山えいじ
「サはサイエンスのサ」149 鹿野司
引き続き(というか飛び飛びで)イーガンの話。イーガン→自閉→テンプル・グランディン→動物と人間→次号に続く。
「家・街・人の科学技術 07」米田裕
今回はフラッシュメモリ。
センス・オブ・リアリティ」金子隆一・香山リカ
◆「地球の遅めの朝」金子隆一……太古の植物の姿が明らかに。ハリウッド映画なんかで忠実に実写化してもらいたいな。この時代を舞台にしたSFがあるかどうかは別にして。やっぱリアルなビジュアルで見たいものねえ。
◆「精神科医と憲法九条」香山リカ……憲法改正が動き出し始めましたねえ。よっぽどの荒技でも使わないかぎり、改正が実現されることはなさそうですが、どうなることやら。
「てれぽーと」
今月は牧眞司氏が、先月号に掲載された金子隆一氏の文章に疑問を呈しています。ところで、ソラリスの海や砂漠の惑星の集合体って、知性として描かれているんだっけ、とか肝心なところが思い出せない。こんな大事なところを覚えてないなんて_| ̄|○。
「鏡の国の王女様」黒井謙《リーダーズ・ストーリイ》
「近代日本奇想小説史」(第60 地方・農村改革小説など)横田順彌
「MAGAZINE REVIEW」〈アナログ〉誌《2006.12〜2007.3》東茅子
悪魔のような外見のエイリアンとのファースト・コンタクトものスティーヴン・L・バーンズ「憎悪の顔」(The Face of Hate)は「静かな感動が味わえる作品」とのこと。ほかにエイミー・ベクテル「トラック」(Trucks)が、「設定が効果的に活かされている短篇」とのことなので気になる。
「世界SF情報」
あ。カート・ヴォネガットが亡くなった。4月11日か。だいぶ前だな。まったく知らなかった。ヴォネガットですら一般ニュースにはならないのか。
「乱視読者のSF短篇講義」若島正(第5回 ロバート・A・ハインライン「輪廻の蛇」)
「just doing what comes naturally」をめぐる考察の飛翔の仕方が若島氏らしくて読みどころ。次回はスタージョン「海を失った男」。
「デッド・フューチャーRemix」(第63回)永瀬唯【第11章 きみの血を 第10滴】
「吸血」から「ポスト終末」へ。しかし次回で扱うのはどうやら日本のマイナーなSF漫画になるらしい。大丈夫なのか!?
「(They Call Me)TREK DADDY 第03回」丸屋九兵衛
編集後記によれば、日本SF評論賞の選評会で、『群像』にでも応募した方がいいんじゃないかと言われていた橋本勝也氏が、群像新人文学賞の評論部門を受賞したそうです。それはたしかに嵐の予感だろうな(^_^)。
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