『yom yom ヨムヨム Vol.1』(新潮社)★★★☆☆

「恋の主役」石田衣良★☆☆☆☆

 資生堂TSUBAKIのタイアップ短篇。

「親指の(思いだせない)記憶」重松清★★★☆☆

 本を「めくる」話。

「ここに居続けること」江國香織★★★★☆

 本を読むことは旅ではなく、ここに居続けること、なのだそうです。
 

「長い夜の紅茶」川上弘美★★★★☆
 ――ときどき、思い浮かべる言葉がある。「平凡」という言葉だ。わたしが、平凡なのである。夫とは、見合いで結婚した。「ちょっと、変わった、むずかしめのお義母さんらしいんだけれど、でもね」と言いながら、母の昔からの友人が持ってきてくれた話だった。

 川上作品の登場人物が平凡だとはとても思えないのだけれど、言われてみるとなるほど平凡という言葉が似合う人たちなのは間違いない。派手、ではないのだ。女だけの密やかな仲間意識というか、変り者同士の密やかな仲間意識が、なんだか落ち着く。翔んでるばあちゃんだなあ。
 

「家守綺譚 クスノキ他」梨木香歩★★★★★
 ――二階に山積みしてある本の一冊を引き抜こうとしたら山がなだれを起こした。なだれは中指と人差し指を直撃した。明くる日近所の診療所に駆け込む。手当をした医者が酒臭い。しかも手荒であった。骨は折れておらん、とつまらなそうに呟いた。

 『家守綺譚』の続編です。内田百間テイストの掌編が六篇。冬虫夏草を異類婚になぞらえる「サナギタケ」が、何やら蘚が恋愛する「第七官界彷徨」みたいで好きだ。
 

「優美」阿川佐和子★★★☆☆
 ――今日は遅くなる、と、圭一郎が顔をゆがめた。そう、とできるだけ感情を込めずに応える。はっきり理由を言わない日でも、声のトーンでこれは会社関係だなとすぐわかる。しかし、その「遅くなる」を告げる場所が玄関に近づくにつれて理由が曖昧になり、私の疑いも深くなる。

 阿川佐和子のエッセイではなく小説は初めて読んだ。『幽』掲載の「るんびにの子供」、本誌掲載の川上弘美「長い夜の紅茶」、そして本篇と、何だか嫁姑の話ばかり読んでいる。そう言えば阿川佐和子ってキャリアウーマン臭を感じさせない人だな、ってこの作品を読んで初めて気づいた。その辺のキャリアウーマンよりよほど知的だと思うんだけど、平凡人サイド代表みたいな雰囲気だものね。
 

「涙の読書日記」角田光代★★★☆☆

 通勤読書、PC起動間の読書、休憩読書……と七パターンの本を常時併読だそうです。家で読むのと外で読むの、くらいにはわたしも分けていたけれど、ここまで徹底するとすごい。
 

「ご飯とお菓子」山本文緒★★★☆☆

 腹を満たすための読書か、嗜好品的な楽しみのための読書か。なるへそ、そういうふうに考えれば、『Deep Love』あたりもスーパーのパック詰めシュークリームみたいなものだと納得できるな。お菓子にもピンからキリまであるものね。まぁその最低ラインのお菓子を絶賛する輩はやはりよくわからんが。
 

「三人姉妹」大島真寿美★☆☆☆☆
 ――大学受験でこっちが切羽詰まっている頃、一番上の姉が結婚するだのしないだので大騒ぎしていたのを、すごく迷惑な話だと思っていたから、その姉が、離婚するだのしないだの、といって甥をつれて戻ってきた昨晩は、ムカムカしてよく眠れなかった。

 二十代の“おばさん”によるアタシ小説。ティーンエイジャー(という設定の少女小説の語り手)よりも周りが見えてないからなおさらイタイ。意図的、だとしてもあんまり好きではない。読むのが疲れた。森見登美彦が客観性を維持できないとしたらこんなだろうかという感じなのかな。
 

「大阪ほのか」吉田修一★☆☆☆☆
 ――「もう、ここでよかっちゃないや?」食堂の並ぶ通路を歩き回って三周目、広志はぱたりと立ち止まった。「大阪生活はどうや?」広志が注文したお好み焼きが鉄板で焼かれるのを待ちながら、尋ねた。

 ああもうムカツク! ダメ女子の次はダメ親父の話かよ_| ̄|○。。。なんでこんなの読まされなきゃいけないんだ……。
 

「誰も祝福しない星のガイドブック1 exchange」嶽本野ばら★★★☆☆
 ――昔の昔、世界の端っこに、海に囲まれたとても幸せな国がありました。しかし元々は、とても諍いの絶えぬ国だったのです。「揉め事ばかりなのは一人一人が不平等だからでしょう。金貨一枚は畑を耕す一時間と同等、銀貨一枚は寿命にすれば一年、というふうに全ての事柄に両替の基準を設ければよいのです」

 いぢわるな童話。からっとした残酷絵巻。読み始めはヨーロッパっぽいファンタジーのイメージだったのに、最後は中国だねえ、この無意味な残酷さは。
 

「遠い足の話1 香川県直島町いしいしんじ

「聞き上手は治し上手」大平健・倉田真由美

 意外と面白かった。精神科医と『だめんず・うぉ〜か〜』の作者の対談。
 

「キヴォーキアン先生、あなたに神のお恵みを」カート・ヴォネガット浅倉久志(God Bless You,Dr. Kevorkian,Kurt Vonnegut)★★★☆☆
 ――わたしの最初の臨死体験は偶然の事故、手術中の麻酔の失敗で起きた。以下の報告は、キヴォーキアン医師の協力を得て、天国の門までの往復旅行の模様を録音したものだ。忠告しておきたい。インタビュー相手にどれほど会いたくても、天国の門をくぐらないことだ。

 ヴォネガット臨死体験中に亡き偉人にインタビューするという形式の短篇いくつか。さてその偉人たちの語ることといえば、たいしたことを語らない(^^; だけどそのほんのさりげない一言に重みがあったりするのだから、偉人おそるべし、いやいやヴォネガットおそるべし。
 

ヴォネガットについて」爆笑問題 太田光

「『合っていない鬘の女』より」レベッカ・ブラウン柴田元幸訳/ナンシー・キーファー画(Woman in Ill-Fitting Wig,Rbecca Brown,2005)★★★★☆
 ――誰も 何度言っても聞いてくれなかった。彼女が叫んで叫んで叫んだのは「狼」じゃなかった 叫んだのは彼女には言えないことだった。***もしかしたらみんな聞いていたのかもしれない。もしかしたら言ったといっても 本当に音を出すところまでは行かなかったのかもしれず……

 ナンシー・キーファーの絵を見たレベッカ・ブラウンが、ぜひこの絵に合わせた文章を書かせてくれと頼んで書いた作品だそうで、内容的にもけっこう実験的な作品集。観念的なことがらを、外側から見た視点だけで描いたような作品かな。たとえば「悲しい」というのを「彼は瞬きする 目から涙が出てきた」のように書くとか(下手な譬えだけど)。
 

「さまよえる少年少女のための5冊」山崎まどか

「猫魚日和」中島京子★★★★☆

 アメリカ名作文学の舞台を訪ねる――ということで、マーク・トウェインだったりウィリアム・フォークナーだったり、『欲望という名の電車』だったり。『トム・ソーヤー』ベッキーが嫌い、だとか、トウェインとハーンが会食したとか何とかのおっさんが学長補佐だったりとか、ハックが食べたナマズだとか、どうでもいいような細かい部分が面白い。この人の小説(できればエッセイ)も読んでみたくなった。ちなみに「猫魚(キャットフィッシュ)」とはナマズのことの由。
 

「翻訳小説食わず嫌いにとりあえずお薦めしたい何冊か」岸本佐知子★★★★★

 日本の小説はフツーに読んでるのに、なぜか海外小説は苦手な人に贈る岸本佐知子お薦め小説。飽くまで日本の小説をかなり大好きな本好き人向け(?)。ブローティガンとかレベッカ・ブラウンとかブコウスキーとかジュンパ・ラヒリとかケリー・リンクとか、めちゃくちゃ本格派です。とりあえず取っつきのよさそうな、という邪心など皆無。いしいしんじとか小川洋子とか角田光代とか町田康とか川上弘美とかが好きな人にお薦めだそうです。うん、ありかな、と思う。

「全貌を現した『ハンニバル・ライジング』」新潮社出版部若井孝太

「『ダーク・タワー』地獄の読破録」大森望★★★☆☆

 全16冊を一週間で読破してレポートを書け、なる理不尽な依頼で幕を開けます(^^)。読むのも理不尽ならレポートするのも理不尽だよ……。七部作を四ページで。半分くらいは雑談だし(^^)。そこが面白かったりするわけだが。しかし原作を読んでない人間にはなんだかわからんレポートであった。

「今様お江戸散歩」畠中恵

三浦しをんの「ふむふむ」1 中村民 三十六歳 靴職人」★★★☆☆

 三浦しをんの職人取材記。読む前は三浦しをんの爆笑エッセイを期待していたのだけれど、どちらかというと作者よりもむしろ靴職人さんの人柄が伝わってくるインタビューでした。意外と聞き上手なのだ。

「すべての本を一列に並べよ」小野不由美★★★☆☆

 本棚と本の整理と引っ越し。本はウチもひどいことになっている……。本棚を買ってもその棚を置くスペースがもうないんだよな。
 

「裏返しの宝石」穂村弘★★★★☆

 いまだかつてフィリップ・マーロウに対してこんな感想を抱いた人があっただろうか(^^)。穂村弘と『人間失格』とフィリップ・マーロウが一本の線で結ばれてしまうのである。
 

「感涙必至、心に必携のお薦め本」豊崎由美★★★★☆

三崎亜記『失われた町』、ピーター・ストラウブ『ヘルファイア・クラブ』、光浦靖子大久保佳代子『不細工な友情』、森見登美彦夜は短し歩けよ乙女』。
 

「楽園を追われて」恩田陸★☆☆☆☆
 ――「で、どうすんの」亜希子が煙草を左手に持ったまま腕組みをして低い声で尋ねた。「どうするかね」稔久がそのままその問いを隣の敦に投げる。「しかし、どういうつもりだったんだろうな、あいつ。こんな辛気臭い手書きの原稿。昔の友人の遺品にしてもね」

 ああ。もうなんでこういう中年小説が多いんでしょか、この雑誌は。単独で読めば、たぶんそれほどひどい作品ではない。恩田陸は好きな作家だし。でも本誌の作風にはもう食傷気味なのだ……。
 

 「20〜30代の女性読者をターゲットにした」結果だろうか、嫁姑とか働く苦労とかを扱った小説が多くなってしまった。川上弘美阿川佐和子のような優れた作品もあれば、恩田陸ですら無惨な結果になっていたりして、別に無理矢理ターゲットに身近な題材で書かなくてもいいと思うんだけどなあ。顔ぶれは凄いわけだし、あんまりターゲットを意識しないでマイペースに書いてくれればさらに面白い雑誌になると思う。しかしこの「20〜30代の女性読者」のほとんどは、いわゆる「読書家」ではないんだろうなあ……。恋愛映画しか見ないで映画ファンとか言ってるような人たちなんじゃあ……。
 --------------


防犯カメラ