『戯曲アルセーヌ・ルパン』モーリス・ルブラン(論創社〈論創海外ミステリ58〉)★★★☆☆

「戯曲アルセーヌ・ルパン」(Arsène Lupin,1909)★★☆☆☆
 ――「このたび、、長女ジェルメーヌはシャルムラース伯爵と結婚式を挙げることとなりました……」「ソニア! ソニア!」「お嬢さま、何でしょう?」「お茶よ、お茶を持ってきて!」

 『ルパンの冒険』で知られる小説の原典。というか、『ルパンの冒険』ってルブラン作じゃなかったんだ。ルブランの戯曲をもとにイギリス人がノベライズしたものだそうです。つまり邦訳『ルパンの冒険』てのも原書である英語からの翻訳なんですね。フランス語の原典があるかのごとく翻訳出版されてるのは問題だな……。

 で、「戯曲アルセーヌ・ルパン」です。小説版『ルパンの冒険』もまったく記憶に残ってなくて、でもつまらなかったことだけは覚えているので読み返す気もなかったのですが、戯曲版もつまらない!

 戯曲だからあんまり動きのある冒険アクションもできないし、細かいトリックなんかも使えない。つまり短篇ものの魅力である創意も、長篇ものの魅力である冒険ロマンも、どちらもない。これだけならまあ戯曲ゆえの制約なのだが……。宝冠を盗む手際がヒドイ_| ̄|○ 機知も粋もありゃしない。すべて力わざ。なんだよこれ。ルパンのキャラもヒドイ。人間的な弱さを見せるルパンなら、小説でもけっこう見ることができた。特に『カリオストロの復讐』なんてのはそこがよかった。でもこの戯曲では、泥棒としても弱っちいのだ。運と力業だけ。人間としてもダメ、泥棒としてもダメ。魅力ないじゃん_| ̄|○

 解説が半端じゃなく充実しているので、解説と併せて資料として楽しむべきかな。
 

「アルセーヌ・ルパンの帰還」(Le Retour d'Arsène Lupin,1920)★★★★☆
 ――「ゲルシャールの助手が来てたんだ」「ひょっとして、ルパンの訪問を受けたのではないかい?」「指輪を一つ盗まれただけだからね……でも、その指輪は大切にしていたものでね」

 なんだか中途半端ではある。アルベールとダンドレジのやり取りを見ると、盗みの下準備なんだろうけれど、結局なにしに来たのかわからないまま幕となってしまう。ただ、本書のなかでは一番おもしろい。ルパンらしいルパンが見られる。冒険を友人たちの回想で語るという形式がうまくいった要因かな。舞台という限られた空間で、冒険ものというルパンシリーズの特色を出すことに成功してます。『虎の牙』の冒頭の会話も思わせるけど、こっちが先なんだ。ほかに探偵ルパンも見られます。心理的な逃亡手段も、ほかの二篇ほど行きすぎにはならずに文字どおり洒落で済んでいるので不自然ではない。ルパンの魅力がほどよく引き締められて詰まっています。
 

「アルセーヌ・ルパンの冒険」(Une Aventure d'Arsène Lupin,1911(1998))★★☆☆☆
 ――「その首飾りがここにあると生きた心地がしないの」「明日、銀行に預けに行くから」「今夜泥棒がやって来たら?」「ふつうなら絶対に大切なものをしまわない場所だ。花瓶のなかだよ……電話だ。もしもし……警察からだ。今夜泥棒に入られる危険があるので、刑事がうちに向かっているようだ」

 ヒドイな。いかにルブランがルパンものに思い入れがないかがよくわかる。もともとルパンの性格設定は作品によってばらつきが大きすぎるのだけれど、警察から逃げるために女心をもてあそぶルパンはないよなぁ……。だいたい「戯曲アルセーヌ・ルパン」のルパンもこの「アルセーヌ・ルパンの冒険」のルパンも、警察に対してびくびくしすぎだよ。おまけに隠し場所を見つけられたのは、隠れて見ていたから(゚Д゚;)。。。
 

 『Arsène Lupin』Maurice Leblanc

 何といってもボリュームあふれる解説に尽きます。ルパンとルブランについてここまでちゃんと本格的なものって、たぶん本邦初なんじゃないだろうか。

 本文の方では「アルセーヌ・ルパンの帰還」が一押し。
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