『記憶の書』ジェフリー・フォード/貞奴・金原瑞人・谷垣暁美訳(国書刊行会)★★★☆☆

 『Memoranda』Jeffrey Ford,1999年。

 『白い果実』の続編。読み始めたときは、『白い果実』と続けて読んだのは間違いだったかな?と思いました。山尾悠子訳のあとではさすがに分が悪い。なぜ第一部に続いて山尾訳ではないのだろう?という疑問は、読んですぐに見当はつくものの。

 『白い果実』と比べるとテンポが速くて軽い。前作の雰囲気も冷めやらぬうちに、気づけばドタバタトリオの珍道中が始まる。と思ったらそれもあっという間にお終い。続いては『グレムリン2』のお出ましである。

 物語自体も『白い果実』と比べると単純な筋運びになっている。一言で言えば宝探し、クエスト。クレイが物語の初めっから「正義の味方」なのも、ちょっと拍子抜け。ギラギラしたピカレスクと比べてはあっさり味すぎるのでした。前作以上にストレートなヒーロー・ファンタジー・アドベンチャーなのですね。

 それと関係するのだけれど、読者だけではなく語り手のクレイ自身にも取るべき道がはっきりわかっている、というところも一因。前作では、クレイに自分が見えていない、というのが作品と不可分だった。だけど今回のクレイには余裕がある。同じ一人称なのに、三人称のように外からのんびり(というのは変な言い方だけど)見ている。ハラハラドキドキの一人称ではなく、冷静なカメラアイといった感じ。

 濃い物語を期待するとはぐらかされるけど、ハリポタみたいに(?)世代の垣根なく楽しめる物語なんじゃないかと思う。隠された暗号(?)を解き明かすだなんて、もろゲーム的なクエストでした。ジェフリー・フォードの作品だと思わずに、そして『白い果実』の続編だと思わずに読めば★5つ級の面白さだった。

 《理想形態市》崩壊の八年後、独裁者ビロウの策略で、クレイたちのコミュニティーに奇妙な《眠り病》が蔓延した。シティの廃墟に戻ったクレイは、独裁者自身も同じ病に冒されていることを知る。特効薬の手がかりを探しに、崩壊が始まっているビロウの《記憶の宮殿》に潜入したクレイは、銀色に輝く《水銀の海》の空中に浮かぶ島で、不可思議な四人の人物に出会うが……(帯あらすじより)
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