『幻影城』といえばこの人、泡坂妻夫のエッセイで幕を開けます。「探偵小説専門誌とありながら創刊号は「日本のSF特集」。この編集長はよほどつむじ曲がりだなと思いました」という言葉を、泡坂氏が言うとなぜだか妙におかしい(^_^)。
そしてメインの島崎博ロング・インタビュー。わたしはあまり伝記的事実に興味のない方なのだけれど、松本清張や泡坂妻夫や中井英夫のエピソードが生の言葉で語られるというのはやはり感慨深いものがある。ほかには、台湾の日本ミステリ・ブームの話に出てくる名物編集者が面白い。どこの世界にもいるんだなあ、こういう名物人間は。
ほかに権田万治、竹本健治、薔薇十字社の内藤三津子、編集者の山本秀樹、デザイナーの池田拓。山野辺進、戸川安宣、栗本薫、山沢晴雄、天城一、新保博久、田中芳樹、連城三紀彦ほか。
一ファンに徹した歌野晶午や大森望のエッセイも面白いし、意外なところで唐沢俊一の「トリビア」トリビアも印象に残った。ほかに皆川博子、北村薫、倉阪鬼一郎、紀田順一郎、山前譲……と枚挙にいとまがないが多数のエッセイが収録されています。
「資料編」の方では、巽昌章が読ませる。ミーハーなわたしにとっては、思想的に云々というより、面白ければ笠井潔でも巽昌章でもよいのだ(評論の読者としてはダメな読者だろかね)。というわけで、わたしはこの文章も笠井論もどちらも支持する。
野地嘉文の文章を読んでいたら、無性に狩久の作品が読みたくなった。アンソロジーにはぽつぽつと載っているのだけれど、一冊にはまとまっていない。再評価するとしたら一番手だと思うのに。アンソロジーの巻末などには、「著作権者の行方がわかりません。ご存じの方がいましたら云々」と書かれているので、おそらく出版したくても著作権者と連絡が取れなくて出版できないのだろう。無断で出版するという無謀を冒してくれる出版社などないだろうな……。集めるにしても、全部でどれだけの作品があるのかすらわからない。
ほかに池田拓、山野辺進、渡辺東の挿絵セレクション。
ファンジンゆえに校正や版組の疎漏は目立つが、豪華でけっこう中身のある一冊でした。
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