『ミステリマガジン』2007年11月号No.261【ここはミステリ・レストラン】★★★☆☆

 今月号はグルメ・ミステリ特集。

「対決 隣のミステリ作家ごはん」霞流一×飯野文彦
 この二人だからほとんどバカ話なんだけど、それが面白い。シムノンの食べ物シーンがいいだなんて鋭いコメントもあったりする。
 

「ニューイヤーズ・ツナ」スニーキー・パイ・ブラウン/茅律子訳(New Year's Tuna,Sneaky Pie Brown,1998)☆☆☆☆☆
 ――〈トラ猫ミセス・マーフィ〉の著猫が紹介する猫料理とその思い出。

 番外編の抜粋。作品のファン以外には楽しめないよ。。。
 

ジーヴス、オムレツを作る」P・G・ウッドハウス森村たまき(Jeeves Makes an Omelette,P. G. Wodehouse,1959)★★★★☆
 ――「ハロー、バーティー。ムカムカ顔の一族の汚点ちゃん」ダリア叔母さんから電話がかかってきた。「よくお聞きなさい。女性顧客用の濃厚ベトベト話が専門のコーネリアに、あたしの雑誌に小説を連載させようとしているところなの。ところがトムがまた守銭奴の真似をはじめてるのね」

 騙されたあ(^_^;。グルメ・ミステリ特集でこの作品とはすっかりやられた。アナトールが出てくるのであながち間違いではないのだが。さてはて本篇でジーヴスが作る料理とは――読んでのお楽しみ。
 

「冷たくして召し上がれ」ローラ・ウィルスン/駒月雅子(Best Eaten Cold,Laura Wilson,2003)★★★☆☆
 ――ミセス・フレミングがその名前を口にした瞬間、わたしははっとした。彼だ。わたしの夫を殺した男、スティーヴン・リード教授。これは運命だと思った。正義は必ず存在すると信じているから。

 果たしてここに書かれたことが実際にあったことなのか、そもそもが正気を失った語り手の妄想なのかもわからない。ただ最後の何行かで急激に高まってゆく狂乱の迫力に読むものも飲み込まれる。
 

「幽霊執事2 昼にはパイを」坂田靖子
 お。来月号には3も掲載予定だし、いつのまにかシリーズものになっとるぞ。結構本格ものだった。
 

「帰ってきた 猫はキッチンで奮闘する」羽田詩津子

「グルメ・ミステリの今と、これから」貝谷郁子 

「ゾクゾクワナワナ 高級チョコレート詰め合せ」モンティ・パイソン浅倉久志
 グルメ・ミステリ特集はここまで。
 

「ミステリアス・ジャム・セッション第78回」図子慧
 図子慧というとホラーの印象があったのだが、いろいろ書いているらしく、ミステリも。駅に現れる易者の占いから真実が浮かび上がる『駅神』が面白そう。
 

「都会の蜃気楼」岡野薫子★★★☆☆
 ――実直な生活を営んできた“私”は、不思議な女性に出会う。彼女は高台にあるマンションに息子と住み、わがままな猫をかわいがっていた――。主人公がふとしたことから知らず知らず迷い込む白昼夢のような世界、そして予想を裏切る結末は、幻想的な筆致に一抹の冷やかさを併せ持つ作者ならではのものだ。

 この作品があるおかげで、今月号は奇しくもグルメ・ミステリ特集であると同時に猫ミステリ特集にもなってしまっている。いかにも児童文学らしい、日常の中の非日常が不意に現実を浸食する匙加減が絶妙。“エキセントリックな子どもにはこう見えている”だけのはずの世界が、突然実体を持って大人の世界を侵犯するのだ。
 

「アジア初の世界SF大会Nippon2007」リポート」
 

「今月の書評」など
◆DVDでは『実録!!ゾディアック』という際物めいたタイトルが一本。ホスト役をロバート・ブロックがつとめているし、内容も「最後まで見ていて飽きない」とのこと。

◆映画では『盗まれた街』四度目の映画化『インベーション』が公開予定。

ポケミスでは『ハリウッド警察25時』をどうしようか迷っていたのだが、「忘れ難い場面は数限りない」「ベテラン作家による手足れの技」とかなり評価が高いのに押されて注文してみた。

◆海外物ではほかにミステリ書店シリーズ第3弾『幽霊探偵とポーの呪い』と、『ファイロ・ヴァンスの犯罪事件簿』。『犯罪事件簿』の方は実話集が好きな人向けか?

小玉節郎「ノンフィクションの向う側」◆
 今回紹介されてる『常識破壊トレーニング』は、早川書房のメルマガでも紹介されてた。なんか紹介のされ方が『トリビア』っぽくてスルーしていたのだが、「好奇心・発見・ユーモアを啓蒙するため」という「イギリスらしい」内容なのだとか。

◆風間賢二「文学とミステリのはざまで」◆
 『漆黒の鳥』ジョエル・ローズ
 

ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか? 第115回 探偵小説の形式化と三人称記述」笠井潔
 「『その記述が事件の正しい記述であるという最低限の保証、すなわち客観性』を、探偵小説が実現することは原理的に不可能なのか」という話の続きを、次回は鮎川哲也作品を俎上に載せて話すそうなので楽しみ。
 

「夜の放浪者たち――モダン都市小説における探偵小説未満 第35回 江戸川乱歩「空気男」(前篇)」野崎六助
 引き続き乱歩。そして乱歩による呪縛。
 

「新・ペイパーバックの旅 第20回=デル・マップバックの完璧なガイド本の話から始めよう」小鷹信光
 なんだか微妙に植草甚一チックなタイトルで始まる今回である。
 

ポルトガルの四月」第02回 朝暮三文

「翻訳者の横顔 第95回 ひそかなライフワーク」越前敏弥

『ファイナル・オペラ 呪能殺人事件』(第3回)山田正紀

『藤村巴里日記』第07回 池井戸潤
 先月号を読みそびれていたから知らなかったけれど、モンパルナスのキキが出てくるんだあ、とまたちょっと興味を引かれてみたり。
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