今年の日本作家特集は、円城塔・伊藤計劃・平山瑞穂とエッジのきいた新鋭がずらり。+『今日の早川さん』SFマガジン出張篇、及びベテラン神林長平『雪風』の続き。
「SFマガジンの早川さん」COCO
なんか、気楽な四コマだと思ってたのに、書評陣が大絶賛なのでびっくりする。そりゃまあ著者の批評眼は確かなのだが。本誌掲載の四篇はやっぱりちょっとよそ行きかなあ?
「Your Heads Only」円城塔★★★★★
――たとえばここには九つの断章が存在しており、その断章が笑えるものであったなら、■を打つ。ちっとも可笑しくなかったり、さみしいものであったりしたら□を記す。あなたが、最初の通読における全ての断章に対して■を附したと考えて欲しい。つまりあなたはこれらの断章を、爆笑とともに読み進めていく。
うわあ。書き替えられているのは僕らの方なのか。読んでるはずが読まれてたのか? 「恋愛小説」はわたしらの頭の中に生成されている。テクストは意味がある(か)のように書かれた文字の羅列の信号に過ぎないのだから。わたしらはその信号にピコピコと反応するのだ。著者のブログを見ると、「別名「恋愛器官」」とのこと。伊藤計劃氏の本誌掲載作が「The Indifference Engine」。仲いいんですかね。
「The Indifference Engine」伊藤計劃★★★★★
――その日、政府軍とホア族のSRF、そしてぼくらのSDAの三者は、オランダ人の仲介によって、停戦に合意した。大人たちの言うことときたら反吐が出そうだった。曰く、戦争は終わった。曰く、もう戦う必要も憎しみ合う必要もない。じょおおおおおだんじゃない。ぼくは、ぼくらは別に、必要があってホアの奴らを殺していたわけじゃない。「必要」を背負う義務もどこにもない。
『虐殺器官』よりも先にこちらを読んでしまった。あ。なるほど。こういう感じなのか。戦争ものといっても、生身の戦争ではなく戦闘の本質を捉えようとしているような。だから戦争映画で目にするような光景というものはこの作品にはない(あるけどさらりとしている)。うわべは完全にSFですね、大友克洋とかの。利害によらない完全な戦意。
「棕櫚の名を」平山瑞穂★★★☆☆
――畑に並んだキャベツの上を、無数のモンシロチョウが狂ったように飛び交っていた。最初のセールス担当地域になったのが、七歳まで住んでいた界隈だったのは偶然だ。しかし誠司は、そのことに運命の悪意のようなものを感じていた。甦る記憶には何かが欠けていた……。
どっかのミステリ風俗作家が書きそうな話なんだけど、棕櫚の木がほとんど異形の化物めいて見える。てゆうかこれって「夏の葬列」だ。消された記憶と幼い日の罪。
日本作家特集はここまで。
「My Favorite SF」(第23回)菅浩江
レイ・ブラッドベリ『太陽の黄金の林檎』。ブラッドりの魅力を短い文章のなかでぎゅうっと紹介してくれてます。
「速報!世界SF大会「Nippon2007」
とりあえずちょこっとだけ速報。詳細は次号で、のようだ。
「ゼロ年代の想像力 「失われた十年」の向こう側 05」宇野常寛☆☆☆☆☆
んー。なんだこりゃ。今までオタクの話をしていたのかと思ってたら、今回は当たり前のようにサブカルの話にシフトしている。なんかね。「エヴァンゲリオンというものが流行っている」というのを、一般人はニュースで知ったわけで、飽くまでアニメファンのあいだで流行っていたに過ぎないと思うんだけど、『デスノート』や宮藤官九郎は一般人も見ているという違いは無視して一括りにされても。
「SFまで100000光年 50 キラキラと拗れるもの」水玉螢之丞
「YIN/YANG」ウスダヒロ《SF Magazine Gallary 第23回》
それなりにきれいな絵だと思っていたのに、最後の一枚で悪趣味全開になる。_| ̄|○
「MEDIA SHOW CASE」渡辺麻紀・鷲巣義明・添野知生・福井健太・飯田一史・編集部
◆映画では『パンズ・ラビリンス』。「子供なら悪夢にうなされそうなダーク・ファンタシイ」だそうである。そして『盗まれた街』四度目の映画化『インベージョン』。「過去の三本の映画化作品と異なる現代的なテーマ」の作品。
◆福井健太氏が少々過熱気味に『今日の早川さん』を紹介しています。
「SF BOOK SCOPE」林哲矢・千街晶之・牧眞司・長山靖生・他
◆北野勇作『ウニバーサル・スタジオ』は「どこか懐かしくてあいまいな、北野ワールド」とのこと。
◆先月号に「スカイ・ホライズン」が掲載されたデイヴィッド・ブリン『キルン・ピープル』は『ミステリマガジン』でも紹介されてました。ということはあらゆる人に楽しめるエンターテインメントなのでしょう。ル・グウィン「西のはての物語」2『ヴォイス』も出ました。
◆ノンフィクションではシャロン・モアレム他『迷惑な進化』。「病気の遺伝子には、どんな「利益」があったのか」。面白そうです。
「魔京」09 朝松健
「罪火大戦ジャン・ゴーレ」(第34回)田中啓文
「おまかせ!レスキュー」113 横山えいじ
「大森望のSF観光局」11 狂乱トーストマスター日記
なんと大森望がヒューゴー賞の司会に選ばれた!というお話。
「デッド・フューチャーRemix」(第65回)永瀬唯【第11章 きみの血を 第11滴】
次回は、「遺伝性梅毒という同時代に流行した概念を導入」して『ドグラ・マグラ』を読み解く。「血の呪い」か、なるほど。
「(They Call Me)TREK DADDY 第07回」丸屋九兵衛
「SF挿絵画家の系譜」(連載20 アートショー(後編))大橋博之
「サはサイエンスのサ」153 鹿野司
今回はがらっと話が変わって“新海はまだまだ謎に満ちている”という話。プランクトンネットで調査研究していたほんの何年か前までは、クラゲは網で粉々になってしまい、こんなに多様なクラゲがいることが知られてなかったのだそうだ。餌も限られてるし環境にも差はないのに、どうしてこんなに多様な種類がいるの?という話。
「家・街・人の科学技術 11」米田裕
給湯は家庭用のエネルギー消費の34%と聞いてびっくり。それを抑えるための新技術がエコキュート。なるほどなあ。
センス・オブ・リアリティ」金子隆一・香山リカ
◆「地球の上に冬が来る」金子隆一……つい最近までは地球環境の歴史も曖昧な予測でしかなかったということか。一刻も早い現状把握と対策のできんことを。
◆「ある“燃え尽き症候群”」香山リカ……安倍総理=燃え尽き症候群?
「博士の迷惑な発明」深井健恭《リーダーズ・ストーリイ》
お。いいね。いかにもSFショート・ショート的な作品。
「近代日本奇想小説史」(第64 押川春浪と冒険実記)横田順彌
一般人の自転車旅行記を押川春浪が代筆(というか何というか?)して、なにやら探検記みたいな作品に仕立て上げてしまうのだから面白い。あり得ん。自転車で世界一周しようと考える中村春吉も桁外れだが、それをまた春浪が悪ノリして書いてるとしか思えない楽しさ。
「MAGAZINE REVIEW」〈アナログ〉誌《2007.4〜7/8》東茅子
「銀河ホテルマンは眠れない」ニール・バレット・ジュニア/浅倉久志訳(The Stentoril Luggage,Neal Barrett Jr.,1960)★★★★☆
――緊急呼び出しベルが絶叫した。「ホテル内に五十ぴきのスケイズティがうろついているんです」一瞬、わたしはぽかんとした。「ああ、神さま」そう言ってわたしはオリーをにらみつけた。グリールがうなずいた。「オリーから聞いた話だと、ステントール人が三時ごろチェックインしたそうです」
宇宙を舞台にしたコメディだと思っていたら、実はけっこうSF(というか科学)だったので驚いた。ホラ話を身近な科学理論で落とす手際にちょっと感心。浅倉氏が書いているように、宇宙版《ホテル》としても楽しめる。何にでも変身できる宇宙ペットをどうやって退治するか。
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