『最後のウィネベーゴ』コニー・ウィリス/大森望編訳(河出書房奇想コレクション)★★★★☆

「女王様でも」(Even the Queen)★★★☆☆
 ――受話器を受けとった。「もしもし、母さん」「トレイシー。パーディタがサイクリストになっちゃったんだよ」「知ってる」「裁判所の禁止命令をとりつけるとか、サイクリストを洗脳のかどで告訴するとか、なにかできることがあるはずだよ」「そうした法律は個人主義と呼ばれるものなのよ。そもそもそれが〈解放〉を可能にしたの」

 一般的に、というか、キャラクター上では、というか、たとえば“男は買い物が嫌い”ということになっているし、“女は人の話を聞かない”ということになっている。で、アレがあろうがなかろうが〈女〉は〈女〉なのでありましたヘ(´-`)ヘ。思い込みだけでまくし立てて同席の男を恐怖におののかせる家族会議に笑えるような笑えないような。題材からはフェミニズムを感じたくもなるけれど、描かれる女はステレオタイプというひねくれっぷり(^_^;。
 

タイムアウト(Time Out)★★★☆☆
 ――「そのサイモンズって人、なんのために来るの?」「時間転移プロジェクトの研究に参加してもらう」ドクター・ヤングは自明のことをきくなという口ぶりで答えた。まちがいなくばかげている。時間は空間とおなじく量子的なものであるというのが彼の持論だが、そこから飛躍して、現在子と名づけたものを揺さぶって自由に動かすことができるという考えに到達した。

 SF的趣向をドメスティックに展開するのがウィリスのコメディ。本書収録の三篇ともに、見てきたような典型的なキャラクターたちが、ベタな笑いを繰り広げる。一番笑ったのは692点というあり得ない点数だった。どこまで欲求不満なんだよ(^_^;。というか、これはコメディというよりギャグです。タイムマシン原理の発想はほとんど筒井康隆の「郵性省」とか「腸はどこへいった」とかと同レベル(もちろん誉め言葉です)。
 

「スパイス・ポグロム(Spice Pogrom)★★★★☆
 ――「うちにはもう場所がないのに、ミスター・オオギフェエエンナヒグレエはものを買うのをやめないの」「こっちではエイリアンとのコミュニケーションで深刻な問題が生じてるんだ。少々のことには我慢してもらわなきゃ」玄関の引戸が開き、オオギフェエエンナヒグレエが戻ってきた。異星人の姿は、ジャガイモ袋にちょっと似ている。

 タイムマシンが出てこようが宇宙人が出てこようが中身はやっぱりドメスティック・コメディ。メインは結局二人の恋愛。ただどうしても、ウィリスの場合は、60年代70年代のおしゃれなコメディ映画というよりは、『フレンズ』とか『フルハウス』とかのファミリー・コメディを連想してしまう。展開だけで話が進むというよりは、キャラクターや人の心がからんでしまうというか。まあそれだからこそシリアスものも強いのだろう。人口過剰で階段にまで賃貸契約が結ばれているという、のっけからあり得ない展開(^_^)。
 

「最後のウィネベーゴ」(The Last of the Winnebagos)★★★★★
 ――テンピへ向かう途中、道路上で死んだジャッカルを目撃した。一瞬、犬だと思った。動物の轢殺は重罪であり、それを報告しないのもまた別の重罪になる。だれがジャッカルを轢いたのだろう。車をとめて生死を確かめただろうか。あのとき、ケイティは車をとめた。ブレーキを踏みつけ、停止するなり車から飛び出してきた。私は深い雪に足をとられながら駆け寄るところだった。

 何度か書いたことがあるけれど、わたしは“関係者の証言によって死者の肖像が浮かび上がってくる”というタイプの物語に弱い。じゃあ証言してくれる関係者が残っていなかったら? そんなことなんて、ありえないのだ。読み終えた瞬間は静かな感動に包まれ、やがてしばらくすると深い感動が襲ってくる。
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