『ピーナツバター作戦』ロバート・F・ヤング/桐山芳男編(青心社SFシリーズ)★★★★☆

「星に願いを」英保未来訳(Wish upon a Star)★★★★★
 ――〈夢〉のなかで見えるものはぼんやりした二つの人影だけだった。近くにいる方は美しい少女だとわかった。第三の人影が見えてきたのは一年近くもたってからだった。顔には目も鼻も口もない。眠れば必ずこの〈夢〉を見た。信じたくなかった。ストリップ劇場の看板に描かれたのが、夢に見つづけた少女だということを。

 人は誰もが主観的現実に生きている、というのをSF的にふくらませた名篇。理屈はぜんぜん違うんだけど、記憶によってタイムトリップする『ラ・ジュテ』を思い出した。救いのない世界と希望と喪失感が似ている(ような気も)。
 

「ピーナツバター作戦」村上純平訳(Operation Peanut Butter)★★★★☆
 ――はじめはミスター・ウイングスのことを鳥だと思っていた。それはちょうどお昼のピーナツバターのサンドイッチを食べかけたときだった。かすかな羽ばたきとともに、川のほうから何か飛んできた。ちょっと間があいてから、「こんにちは。ジェフリイ君だね」唇を動かさずにいった。

 SFをファンタジーの形で描いた少年もの。異なるものとの触れ合いと恩返しが、子どもの目にはファンタジーに見え、大人の目には奇蹟に見えるのだ。
 

種の起源」桐山芳男訳(Origine of Species)★★★★☆
 ――ネアンデルタール人の一団がミス・ラーキンを捕虜にしたのは間違いなかった。しかし、一体何のためなのかファレルには見当がつかなかった。確かにミス・ラーキンはセクシーで美人である。だが、ネアンデルタール人が彼女に感じる美的感覚は、ファレルが雌ザルに感じるのと同じであるに違いない。

 よくある発想だしタイトルがネタバレじゃないの?とか不安に思いながら読んでいたら、細かいところでいろいろサービスしてくれた。いろんなSFネタを詰め込んでいて、“青い電光”の正体が微笑ましい。どの作品も、絵に描いたようなきれいなまとめ方がうまい。
 

「神の御子」大宮守夫訳(Robot Son)★★★★☆
 ――レイズハンドは用心深く技術教会堂《テック・テンプル》に近づいていった。技術神《テック・ゴッド》が夏を奪い去ってしまうまでは、恐れを抱くことなどなかった。向こう岸の土手に、技術尼《テックレス》が足を組み、静かにすわっていた。「聖母さま。技術神は、どうして夏をなくしてしまったのですか」

 キリスト譚の諷刺かと思いきやキリスト譚の語り直しに転じる展開が見事。とはいえこれ、日本語で読むと最後に至って「ああ。」なんだけど、英語で読むとまんまなのか? 英語だとスペルは同じだものねえ。聖書には神やイエスの理不尽なエピソードが数多くあるんだけど、信じろって言われたところで、人の子にはそれが本物の神なのか紛い物の神なのか判断するすべはないのだ。
 

「われらが栄光の星」(Mine Eyes Have Seen the Glory)★★★★☆
 ――ジェットでさまようオランダ人。人はそう呼んでいたが、彼はオランダ人ではなかったし、彼の船もジェット推進ではなかった。伝説では、入港した先々で、愛の力で彼を救ってくれる女性を求め歩いている、ということになっていた。ナサニエル・ドレイクがある女性を捜している――これは本当だ。けれど探している女性というのは彼以上に幻に近い存在だし、望んでいるのは愛の力ではなく憎しみの力で救われることなのだった。

 最後にいきなりSFになる。すべてのエピソードが収斂する真相は美しいのだけれど、前半宇宙ロマンパートと後半説明パートに完全に分かれちゃってるので、物語を読んだというよりは問題編と解答編を読んだという印象で、ちょっとカタルシスが減る。半透明になったまま一人の女を訪ね歩くという奇妙奇天烈な設定を、ほろりとした物語にしてしまうのだからたいしたものである。
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