『奇岩城』モーリス・ルブラン/平岡敦訳(ハヤカワ文庫)★★☆☆☆

 代表作に数えられることが多いが、以前からあんまり好きな作品ではなかった。ルパンというよりボートルレが主役だからなー。このボートルレという少年が、自信家のくせに優等生的でアクがなく、かと思うと突然泣き出したりして、およそ魅力というものが感じられない人物なのだ。

 今回新訳で読み返してみると、前半のボートルレ名探偵の部分は面白かった。ルパンの仕業らしいとはわかっているんだけど、ルパン自身は消え失せる。というわけでボートルレによるスピーディな名探偵ものになっているのだ。

 ところが後半になるといただけない。ルパンという人物は作品によって極端にセコかったりするのだが、本書でもルパンのセコさ全開である。正々堂々と勝負しろよ(^_^;。本書のルパンは、なんとボートルレが真相に近づこうとするたび、脅してすかして邪魔をするのだ(少なくとも表面的には)。実はすべてが計画通りだったと言われても……う〜ん。。。

 「獄中のルパン」や「黒真珠」のような、一種の“操り”ものなんだけれど、操り自体に必然性があったかなあ?……というもやもやが残ってしまう。

 本書を読んだことで、『ルパン対ホームズ』をあまり好きになれない理由もわかった。名探偵(ということになっている人)と対決するときの泥棒ルパンはセコいのだ。『カリオストロの復讐』みたいな弱いルパンは好きなんだけど、セコいルパンは好きになれない。

 それと、暗号小説としてもあまり優れているとは思えない。だいたい暗号が落ちている理由がわからないもの。手に入れたばかりのものでもなければ、原本を持ち歩かなければならないようなものでもない。計画的に落としたわけでもないはず。暗号自体もただの覚書を換字法で置き換えただけのものだし、内容の方も作中でも言われているとおり、「謎を解くには、あらかじめ謎の意味を知らねばならない」ものだからなあ。暗号を解くというよりも、「レギーユ・クルーズ」とは何か?を見つける物語なのだ。だけど「歴史的な罠」の二重の暗号はうまいと思う。

 ルパンもボートルレも犬の命を何とも思っちゃいないのがものすごく気になった。

 『L'aiguille creuse』Maurice Leblanc,1909年。

 レイモンドが放った一弾は、みごとに逃走せんとする賊を撃ち倒した。ところが重傷を負ったはずの賊が煙のごとく消え失せる。しかも屋敷から盗まれたものは何一つなかったのだ。この奇怪な謎を解き明かしたのは、まだ高校生のイジドール少年。しかも彼は事件の首魁を、かのアルセーヌ・ルパンだと喝破した! かくて怪盗対少年探偵の熾烈な頭脳戦の幕は切って落とされた……シリーズ初の長篇にして代表作に数えられる傑作。(裏表紙あらすじより)しかしずいぶん古めかしい紹介文だな。。。
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