『盲目の理髪師』ディクスン・カー/井上一夫訳(創元推理文庫)★★☆☆☆

 『The Blind Barber』John Dickson Carr,1934年。

ファルスっていうのがどういう種類の笑いなのかはよくわからないが、他作品で描かれるカーのドタバタとはちょっと違った。

 主要人物4人のうち、カート・ウォーレンとペギー・グレンの2人の頭が悪すぎてまったく笑えなかった。無理矢理バカなことをしている感じでかったるい。カーの若い男女のロマンスってけっこう面白いものが多いのに、こんなバカなカップルを登場させるなんて珍しいような気がする。

 ミステリとしては一応のところ、読者への挑戦という形なのだろうか。カーの好きな手がかり索引付き。

 タイトルは、「盲目の理髪師」柄の剃刀が現場に落ちていたというだけで、たいした意味はない。

 新装版っていうから文字が大きくなっただけだと思っていたら、アントニイ・バウチャーの序文と戸川安宣氏のノート付。

 大西洋をイギリスに向かう豪華客船クィーン・ヴィクトリア号で発生した、二つの盗難事件と殺人事件。すれ違いと酔っぱらいのどんちゃん騒ぎのうちに、消えたはずの宝石は現われ、死体は忽然と消え失せる。笑いとサスペンスが同居する怪事件の真相やいかに? 巨匠カーの作品中、もっともファルスの味が濃いとされる本書はまた、フェル博士が安楽椅子探偵を務める本格編でもある。(裏表紙あらすじより)
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