『砂の都』マルセル・ブリヨン/村上光彦訳(未知谷)★★★☆☆

 何気なくカバーをめくると、最近には珍しく布装なのがちょっと嬉しかった(^^)。

 長篇というよりは短篇を積み重ねた連作長篇という方が近いでしょうか。

嵐が過ぎると、覆われていた砂が吹き飛ばされたそこは古代都市の遺跡だった……というわけで遺跡に降り立った考古学者は、いつしか往時の都市で暮らし始める。

 絨毯商、講談師、宝石商、苦行者、幻覚、一人の少女……そんな人々と織りなす日々の出来事が、日常的とも幻想的とも言えるような筆致で取り留めもなく語られてゆきます。

 カバー裏には「懐かしい夢物語」とありますが、考古学者でもある著者が交わした遺跡との対話――考古学者が夢見るロマンチックな内省のようなものとも言えそうです。飛行機少年の空飛ぶ空想とか、女の子のお姫さま願望とか。

 だから他愛ないといえば他愛ないのですが、その平凡な日常と地続きのような夢うつつの白昼夢めいた幻想風景が、ほんわかと心地よいです。

 ラマ教遺跡の噂に中央アジアシルクロードを訪れた考古学者が一人、突然襲う砂嵐の中、13世紀と思われるオアシス都市にワープする……幼い頃の思い出を魂の片隅に留める者には、星辰と共に言いようもなく懐かしい夢物語。(裏表紙あらすじより)
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