『S-Fマガジン』2008年03月No.623号【2007年度英米SF受賞作特集】★★★★☆

英米受賞作特集。受賞作のいくつかはワールドコン特集の号にも掲載されてます。

「十億のイブたち」ロバート・リード/中原尚哉訳(A Billion Eve,Robert Reed,2006)★★★★☆
 ――舞台は抑圧的な教会が支配する並行世界の地球。教会は〈リッパー〉とよばれる装置を用いて、女子寮とその住人を道連れに並行世界へ転移した第一家父を崇めていた。そんな世界で育った少女カーラは成長と共に第一家父の真の姿を知るのだが……。(あらすじより)

 『ワールドコン特集1』で紹介されていて、面白そうだったヘンな作品。でもヘンなのはとっかかりだけで、中身はSFというより健気な女探偵ものとかそんなノリに近い。というか、「男性原理が支配していることが当たり前であること」にSF的で珍妙な理屈をつけているせいで風変わりな印象を受けるのだけれど、そもそも大抵の一神教って基本的に男性原理なんですよね。物語のその後に待ち受けているのが例えば女性原理の一神教みたいなものに過ぎなかったとしても、それはそれで同じ過ちを馬鹿みたいに繰り返すよりはいいやね。
 

「エコー」エリザベス・ハンド/柿沼瑛子(Echo,Elizabeth Hand,2005)★★★★☆
 ――犬と共に孤島で暮らしている女性は、別れた恋人からのメッセージを待ち続けていた。古典のエピソードを織り交ぜながら、壊れていく世界を断片的に描いた掌編。(あらすじより)

 恋人に振られ無人島で暮らしながら、元恋人とのメールのやり取りをして過ごす女。たぶん戦争が起こった。でもたぶん語り手はそのことに気づいていない。恋人からのメールもたぶんもう届いていない。でもたぶん語り手はそれにも気づいていない。ただただ待ち続けるだけ。「さようなら」を言われたことだけは一応のところ理解しているみたいなんだけど。。。エコーにはそれを繰り返すことしかできない。
 

「2007年度・英米受賞作特集」細井威男

「SF SCANNER 特別版」金子浩・東茅子・編集部
 それぞれネビュラ賞長篇部門ジャック・マクデヴィッド『Sheeker』(早川書房近刊予定)とディック賞クリス・モリアーティ『Spin Control』とローカス賞ファンタジイ部門エレン・カシュナー『The Privilege of the Sword』(早川書房刊行予定)のレビュー。最後の『剣の名誉』はタイトルがなんかヒロイック・ファンタジーっぽいけど、あらすじを読むかぎりでは歴史ものっぽい気もする。
 

英米SF注目作カレンダー2006」加藤逸人
 「ナボコフ風の仕掛け」のジェフ・ヴァンダーミア『シュリーク/後書き』が面白そう。
 

「シスアドが世界を支配するとき」コリイ・ドクトロウ/矢口悟訳(When Sysadmins Ruled the Earth,Cory Doctrow,2006)★★★★☆
 ――ベテランシステム管理者のフェリックスは、ネットワークトラブルの連絡を受け、妻と息子を家に残して深夜、データセンターへ出勤した。ネットワークの復旧作業に勤しむ彼のもとに妻から息子が亡くなったち伝えられ、その後連絡が付かなくなってしまった。災害と同時多発テロによって世界は壊滅してしまったのだった。フェリックスたちシステム管理者は、テロの手段ともなりうるインターネットを維持するべきか躊躇するが……。(あらすじより)

 何だこりゃ(^_^;。あまりにもオタク臭が鼻について、それが逆に笑える。世界が(完全に)崩壊でもしないかぎり、オタクは現実に向き合おうとはしないらしい。本気で世界を変えるには向いてる方向が明後日すぎるそのヘッポコ感が、諷刺として秀逸(マジじゃないよね? 諷刺だよね)。やがてエネルギーが底を突くのが明らかな状況で、ネットの可能性云々なんて言っても、現実逃避の手段としての役割しか持ち得ないのは分かり切っていることなんだから、結果として問題提起のピントがぼやけてしまっているのは否めない。
 

 受賞作特集はここまで。
 

「My Favorite SF」(第27回)円城塔
 ライアル・ワトソン『未知の贈りもの』についてなんだけれど、なんか今までで一番ちゃんとした自作解説になっている気もする。
 

「『ペネロピ』誌上公開」

「『夏の涯ての島』の煌き」
 プラチナ・ファンタジイの新刊。短篇集。なんとなく装幀の雰囲気を統一するようにしたんだな。文庫のころより叢書っぽくなってきた。
 

「十月二十一日の海」平山瑞穂 ★★★★☆
 ――地図にカッコつきで記載された曖昧な湖を、僕と塔子は訪れることにしたのだが……。(袖あらすじより)

 不潔な惣菜屋とか不条理なバス事故とか、だんだん妖しげな雰囲気に染まってゆくのが楽しい。とどめはダムに沈んだ町から島のように突き出したビルのてっぺんを観光にしようという、どこかで実際にありそうな(チロル団地とかよりはよほど現実的だと思う)のにそのくせ異様な光景。次の一歩を踏み出せない人の物語でした。
 

「SFまで100000光年 54 ダメに至る病、のあと」水玉螢之丞
 相変わらず脳内ひとり上手が面白い。

「Seasoning of Breeze」永田智子《SF Magazine Gallary 第27回》
 

「MEDIA SHOW CASE」渡辺麻紀鷲巣義明・添野知生・福井健太・飯田一史・北原尚彦
ティム・バートンジョニー・デップスウィーニー・トッドは期待大なわけですが、キャラクターがそのままティムやティム夫人に重なってしまう、なんていう観方はしたくないなあ。。。

◆飯田一史の文章は何かのパロディなのか? あまりにも支離滅裂なんだが。
 

「SF BOOK SCOPE」林哲矢・千街晶之牧眞司長山靖生・他
恩田陸『いのちのパレード』は、異色作家短篇集へのオマージュだってさ。へぇ。恩田陸は最近いっさい興味がなくなってしまったのだけれど、こういうのは読んでみたいな。でもそういえば『盗まれた街』へのオマージュはイマイチだったんだよな。。。前川知大散歩する侵略者は「ライトなタッチで綴られた言語SF」ということなんだけれど、それよりも「自作戯曲の小説化」という方に興味を惹かれた。山本弘『MM9』『シュレディンガーのチョコパフェ』。『MM9』は大森望のコメントが面白い。

田中ロミオ人類は衰退しました2』のコメントはやたら熱気が伝わってきます。『1』は『SFが読みたい2008』にランクインしたそうです。

チャールズ・ストロス『残虐行為記録保管所』は「オカルト知識を、整然とした科学の言葉で説明」と書かれていますが、大森望に言わせると「“クトゥルーの邪神が実在する世界”に納得のいく理由を考える話」(『ミステリマガジン』)となる。

スカーレット・トマス『Y氏の終わり』、あらすじだけ読んでもよくわからないんだけど、ごった煮系の主流文学なのかな。そういうの好きなので気になる。
 

「魔京」11 朝松健

イリュミナシオン」13 山田正紀

「(They Call Me)TREK DADDY 第11回」丸屋九兵衛
 今回は、スタートレックの話というより、平行世界の話なので、非スタートレック・ファンにもとっつきやすい。

「SF挿絵画家の系譜」(連載24 梶田達二大橋博之

「サはサイエンスのサ」157 鹿野司
 前回の続き。さらに続く。
 

「家・街・人の科学技術 15」米田裕
 おお! インクジェットプリンタの内部では、そんなすさまじいことが起こっていたのか。
 

「センス・オブ・リアリティ」
◆「のぼれのぼれ――てっぺん」金子隆一……軌道エレベーターの実現可能性について。
◆「多層化する対人関係」香山リカ……やだなあ。リアルにあぶない人たちが増えてるってことじゃん。
 

「近代日本奇想小説史」(第67 押川春浪の死とブームの終焉)横田順彌

「MAGAZINE REVIEW」〈アナログ〉誌《2007.7/8〜11》東茅子
 

ゼロ年代の想像力 「失われた十年」の向こう側 09」宇野常寛
 今回はわりと面白かったなあ。作品ごとの個別論だとこじつけっぽいが、時代の流れをまとめるような総論だとそういうのが気にならないからだと思う。扱われている個々の作品に対する評価の是非はともかく、「大人になれ」派VS「子供でいいじゃん」派→「新・教養主義」→その後、という流れはわかりやすい。
 

大森望のSF観光局」15 ウイ・アー・レジェンド
 SF読者と理屈について。「コニー・ウィリス『航路』に対する複数の非SF読者の感想」というのが唖然。それって小説読者ですらないでしょう? ふだん小説を読まない人の感想だよ。まさか小説好きがそんな頓珍漢な感想をのたまうとは思いたくない。とか言いつつ、『MM9』に対する『ミステリマガジン』前月号の小池啓介氏のコメントも、引用されたのを改めて読んでみると、頓珍漢だなあ。
 

「デッド・フューチャーRemix」(第69回)永瀬唯【第12章 ハイ・フロンティア】2
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