『The Mystery of Bucher's Shop』Gladys Mitchell,1929年。
〈晶文社ミステリ〉を引き継いだ〈河出ミステリー〉なのですが、これまでのところジョン・コリアを除いてはオフビートな笑いのミステリばかりです。刊行予定を見るかぎりでは、ハートリーの『ポドロ島』以外はそんな感じが多いようです。SFやファンタジーや幻想寄りのは〈奇想コレクション〉で、てことなのでしょう。
読み始めてすぐに思ったのは、マイクル・イネスのときも感じましたが、イギリスだなあという感想です。基本は、登場人物がてんでにがやがや騒がしい、田舎もののクラシック・ミステリなんですよ。野次馬的に騒いでいるうちに、意外な人間関係が勝手に明るみに出て来るような。(てゆーか本書と比べれば『アララテのアプルビイ』が普通に思える)。
なのにまったく意外そうに書かないんだもの。悪く言えば全編だらだらと起伏なく進行してゆきます。コミカルなのに淡々と進んでゆくのでちょっと気持ち悪い(^_^;。
証拠品の頭蓋骨やら鞄やらが出たり消えたりとたらい回しにされたり、被害者の特定自体どうせあの人なんだからとなおざりにされたり、犯人探しのはずなんだけどむしろ犯人探しの過程における住人たちの内輪ネタの方がメインになっていたりと、すべてがズレています。
やる気がないのかパロディなのか、いくら伏線が張られていようとミステリとしてはあっちゃむいてほいです(^_^;。なんだあの解決篇(もどき?)は。ミセス・ブラッドリーも、エキセントリックな名探偵というよりはただの変人に近い。
「遺言状を書きかえたい」というセスリー氏に呼ばれた弁護士がウォンドルズ・パーヴァ村に赴くと、セスリー氏はアメリカに行ったという。弁護士は狐につままれるが、その翌朝、隣町ボスベリーの肉屋で、牛肉を吊るす鉤にぶらさげられた首なし死体が発見される。現れては消える頭蓋骨、屋敷の森の〈生け贄の石〉周辺の怪しげな出来事、複雑怪奇な事件に乗り出したのは、精神分析学者で、魔女の血を引くともいわれる名探偵ミセス・ブラッドリー。英国ヴィレッジ・ミステリの逸品。(帯裏あらすじより)
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