『ジーヴスと朝のよろこび』P・G・ウッドハウス/森村たまき訳(国書刊行会ウッドハウス・コレクション)★★★★★

 『Joy in the Morning』P. G. Wodehouse,1947年。

 これまで数々の作品で、作法は守りながらもバーティに対して理不尽な解決策を提案してきたジーヴスですが、本書ではジーヴスのいぢわるっぷりが解決篇に至る前から炸裂しています(^^;。

 奸計を巡らし首尾よく釣りスポットに出かけることに成功したかと思えば、「あなた様のご到着を警告申し上げてまいるのがよろしかろうと拝察申し上げます」「〈警告する〉という表現でいいのか?」「〈お知らせする〉と申し上げておりますべきでございました、ご主人様」だなんて明らかにわざと言い間違ったりして、小憎たらしいのである(^^)。

 それよりも特筆すべきはノビーの存在。バーティにとって女の子というのは天敵みたいなものだったんだけれど、本書のノビーは珍しくバーティと気が合う女の子。だからスティープル・バンプレイまで二人でドライブして息の合った会話を見せるシーンなんて、ジーヴスものにはちょっと珍しい光景でした。バーティの人柄がかいま見えるようで、けっこう好きなシーンです。

 そして本書は、いつにも増して笑いの度数が高かったように感じました。そこかしこで反則気味の笑いが炸裂します。スティープル・バンプレイに到着したかと見る間にとんでもない洗礼を受け、いよいよクライマックスも近いところで「ボースタル・ローヴァーズ」の反則技(^^)。
 

 ことが済んで家路に向かう段になったときになって、バートラム・ウースターも絶望の寸前に至ったときがあることを、僕はジーヴスに告白したものだ。「危ないところだったな、ジーヴス。この状況すべてを総括する表現があったと思うんだ。決まり文句かな。格言だ。よろこびがなんとかいうやつ」「よろこびは朝訪れる、でございましょうか」「そいつだベイビー」スティープル・バンプレイの惨劇の顛末をこれほど見事に約言するすべはないと考えている。

 スティープル・バンプレイの難点とは、バンプレイ・ホールを含有する点にあり、そこがアガサ伯母さんと二番目の夫を含有するという点にあるのだった。この二番目の夫というのがウォープルスドン卿に他ならず、彼には娘のフローレンスと息子のエドウィンがいた。前者はかつて僕が婚約していた恐ろしい女の子であり、後者は青二才中最悪の疫病神である。

 そんなわけだから、そこに絶好の釣り場があるというジーヴスに対しても、僕は強硬な態度をとり続けねばならなかった。

 ところがウォープルスドン卿の仕事と友人たちのこじれた結婚問題を解決するため、やむなくスティープル・バンプレイに赴いたところ……。
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