『アッシュベイビー』金原ひとみ(集英社文庫)★★★★☆

 読みやすいからすいすい読めるんだけど、初めにうおっと思ったのは果物ナイフのシーンでした。

 むしゃくしゃしてどうにもならない気持を饒舌体で吐き出すように抉るように書きながら、同時にその文体で書かれた足から血が噴き出すシーンを笑いまみれに描き出しちゃうのです。笑えて、グッと来て、ちょっと痛くて、ちょっと引いて。なんてことを同時に出来てしまうのは、ホントただ者ではありません。

 しかしやはり綿矢りさと比較してしまうんだけれど、二人ともこのユーモアと悪意の上手さは何なんでしょう(^_^;。

 「こんなバカ男が、ヤッてる相手を殺そうとしてる。失楽園だ。」という文章はさり気ないだけに大爆笑。

 (※ところで「爆笑」は誤用だ、という言い方がよくされるけど、それって厳密には正しいけど指摘としてはトンチンカンだよね。例えば「爆睡」という言葉がすでに俗語として定着している以上は、「爆笑=大笑い」も誤用から転じた俗語としての意味用法であって全然問題はない。フォーマルな文章だと問題ありだけどさ)。

 「もしかしたらあの赤ん坊は、私なのかもしれない」だなんて、きれいにまとめようとしているところに若さが出たかなあ。。。と思いきや、きれいになんかまとめてやるものかと言わんばかりの唐突な幕切れ。まあそれも実験的というほどではなくて、これすらも一つの定型ではあるんだけれど、それでもやはり効果的なのは、これだけ感情をぼこぼこに読者の前にさらけ出したあとの、唐突な幕切れだからだと思います。

 キャバクラ嬢のアヤは大学時代の同級生であるホクトと些細なきっかけから同居を始めた。彼は小児性愛者で、大人の女には見向きもしないのだった。ある日、ホクトの知人である村野という冷淡な男に出会い、アヤは強い執着を抱く。しかし、ホクトが家に赤ん坊を連れ込んだことから、すべてが歪み始めた……。欲望の極限まで疾走する愛を描き、いびつな真珠のように美しく衝撃的な恋愛小説。(裏表紙あらすじより。なんだけど、まったく面白くなさそうなうえに、そもそもこんな話ではないし。。。)
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