『カリオストロ伯爵夫人』モーリス・ルブラン/平岡敦訳(ハヤカワミステリ文庫)★★★★★

 『La Comtesse de Cagliostro』Maurice Leblanc1924年

 面白かった記憶はあったのだけれど、こんなに面白かったとは覚えてませんでした。インパクトのあるトリックや意外な犯人が登場するわけではないから、確かに具体的な面白さが記憶には残りづらいのだけれど、いや〜このはったりの痛快さ! 不老不死のカリオストロの娘だなんて、どう考えたってあり得ないのに、読んでてどきどきわくわくしちゃうものなあ。

 ルブランは美女の犯罪者を書くと生き生きしてる。男の犯人は化物みたいな人間とか脂ぎった俗物とか格の違うチンピラみたいなのばっかりなのに。そう、これは名犯人VS名犯人の小説なのだ。ルパンものには珍しくピカレスク色が強い。もう一つの勢力も加わって、騙し騙されの三つ巴。クラリスパパの勝ちかと思えばジョゼフィーヌ、かと思えばダンドレジー、とめまぐるしい展開が楽しい。

 恋愛色が強いのも特徴。ルパンの恋愛は(本人がいくら真剣なそぶりを見せようとも)割りと遊びっぽいのが多いんだけど、これはジョゼフィーヌとがっぷり組んでます。お互い惚れ合ってるのに憎み合ってる腐れ縁。自分のものにできないのならいっそ――というカリオストロ伯爵夫人の執念がかっこいい。『源氏物語』の六条御息所とか、こういう業の深くてプライドの高い女って何故だかかっこよく思えてしまうのです。考えてみると、ルパンもののなかでルパン以外に魅力のある登場人物って、あんまりいない。(ぱっと思い浮かぶのがマズルーだったりする。微妙なとこだな。。。)。

 人殺しも辞さないカリオストロと、人殺しだけはしないルパンというキャラの違いが、その後の『カリオストロの復讐』にも活かされてるんですね。

 暗号小説として有名ながらもその実魅力的なのは暗号そのものよりも〈エギーユ・クルーズ〉の謎の方だったりする『奇岩城』と比べても、本書の暗号の方が絵的にも美しいと思うのだけれど。もっと暗号を前面に押し出してもよかったのに。

 ※気になったこと。1.相変わらず訳者さんは否定疑問に対して否定で答えている。編集者はちゃんとチェックしてよ。2.カリオストロをジュゼッペ・バルサモとイタリア語読みしちゃうと、ジョゼフィーヌとのつながりが見えにくいと思う。

 世紀の怪人物の末裔を称し、絶世の美貌で男たちを魅了するカリオストロ伯爵夫人ことジョジーヌ。彼女は権謀術数を駆使する怪人ボーマニャンを相手に、不仏戦争のどさくさで失われた秘宝をめぐる争奪戦にしのぎを削っていた。その闘争の最前線に一人の若者が割り込む。その名はラウール・ダンドレジー。彼こそは、のちの怪盗紳士アルセーヌ・ルパンその人だった。妖艶なる強敵を相手にした若きルパン、縦横無尽の大活躍!(裏表紙あらすじより)
 ----------

  『カリオストロ伯爵夫人』
  オンライン書店bk1で詳細を見る。
 amazon.co.jp amazon.co.jp で詳細を見る。


防犯カメラ