『ロクス・ソルス』レーモン・ルーセル/岡谷公二訳(ペヨトル工房)★★★★★

 日本語で読むと、何で歯(^_^)とか思っちゃうんだけど、原文では言葉のマイルールつながりがあるらしい。でもつながりがわからない日本語訳の方が、奇想が吹っ飛んでいて面白いとも言える。筋なんてないし、といっても『トリストラム・シャンディ』の連想とも違う、唐突な発想の飛躍が面白くてしょうがない。談志のイリュージョンとか鳥居みゆきとかの小説版?

 訳者も解説でルーセルは奇想に重きを置いていたらしいと言っているし、それでいいんだと思う。

 第一章ではそれでもわりとファンタジーっぽいのだけれど、ミシェル・カルージュ(Michel Carrouges)「独身者の機械(Les Machines célibataires)」の装画も掲載されている第二章を読むと、シュールレアリストが狂喜したのもむべなるかなといった感じの怪しい機械芸術が登場します。その後の作中作の入れ子構造には、『新アフリカの印象』を彷彿とさせるところもあるんだけど、お前はマトリョーシカかっ!って感じでほとんどギャグです。

 圧巻は第四章。遺族の思い出のために死者を蘇らせ生前の行動を再現させるという発明(?)施設の話です。初めに施設に収容されている死者の行動を次々と描写して、説明はあとからまとめて行う『アフリカの印象』方式なので、初めはわけがわかりませんが後半を読んで「おお!」という感動が生まれます。それにしたってよくもまあこれだけの奇想を並べ立てたなあと感心しきり。金で書いた伝言やら赤を見て発狂やら骸骨に書かれた暗号やらが、盗賊やらトラウマやら我が娘やらで結びつけられてしまうだけでも楽しいのですが、すごいのはその裏にあるエピソードがちゃんと読める物語になっているところです。ところどころで無茶な飛躍はあるものの(そこが楽しいんだけれど)、全体としてそれだけで独立した短篇小説として読める人情話風の物語になっているんです。通読するのに挫折した人は、ここだけ読んでもいいと思う。

 日本語で読んでも作品としての統一感や構成は無茶苦茶だけど、ヘンな話が読みたい人は絶対に読むべき小説です。

奇書中の奇書! 死者を甦生し、畸型を作る世紀末の綺想科学者(帯惹句より)
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