『ヴェニスの商人』シェイクスピア/安西徹雄訳(光文社古典新訳文庫)★★☆☆☆

 共感できるのがシャイロックのみというのは、シェイクスピアの意図したところなのだろうか。すべての登場人物が利己的で、人を小バカにすることで成り立つ笑いには不快感を覚えるだけだった。

 当時の社会常識というのを差し引いてもかなりキツイ。シャイロックが悪役なのはいいとして、アントニオやポーシャもどちらかというと憎まれ役なんだもの。

 現代日本に置き換えるなら、シャイロック=中国系消費者金融、アントニオ=ホリエモンや三木谷、ポーシャ=恋のから騒ぎのメンバーとかあたりかな。

 現代劇としても通用する内容なのに、ポーシャの求婚者選びだけがお伽噺みたいでショージキ浮いている。指輪のエピソードと併せて、このせいでポーシャの性格が天然でチョーシこいてる女みたいになってしまった。

 アントニオもなあ。。。もっと「いい人」であることをアピールしてくれないと、シャイロックを馬鹿にするところだけが目立っていて、金を借りるのに威張っているカン違い君という印象しか残らなかった。

 恐らくシャイロックは実の娘からもひどい仕打ちをされるほどの極悪人という設定であって、どれだけあくどい奴かはここでは書かないけれどそういう設定なんだよ、ってことなんだろうけれど、『リア王』や『マクベス』と比べるとあまりにも性格付けの背景が浅すぎる。結果的に、劇中で吐露される人間らしさだけが露わになって、あくどさがほとんど感じられない人物になってしまった。

 というわけで、登場人物すべてを小バカにするポーシャ、シャイロックを小バカにするアントニオ、それらに必死で抗うシャイロック――という感じで、ねえ……。コメディの約束事をすんなり受け入れられる人なら楽しめるかな。キャラの性格付けをリアルに受け止めちゃうと楽しめない。

 裕福な貴婦人ポーシャへの恋に悩む友人のため、貿易商アントニオはユダヤ人高利貸しのシャイロックから借金をしてしまう。担保は自身の肉1ポンド。商船が難破し全財産を失ったアントニオに、シャイロックはあくまでも証文どおりでの返済を迫るのだが……。(裏表紙あらすじより)
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