『黒蜥蜴』三島由紀夫(学研M文庫)★★★★★

 これが初文庫化。戯曲は売れないからなのか、三島と乱歩ふたりの権利の関係で難しかったからなのか。

 第一幕でいきなりクライマックスというか、明智と黒蜥蜴の緊張感漂う一騎打ちがあります。それこそ空気がぴしぴしいっているような素晴らしいやりとり。で、これ以後は最後になるまで直接的な一騎打ちがないところも上手い。盛り上がりっぱなしじゃあ却って盛り下がっちゃうものね。

 黒蜥蜴と明智の恋愛をクローズアップしたことで、黒蜥蜴や二十面相の陰に隠れて意外と地味だった明智も輝いて見える。本格的な一騎打ちの場面は少ないのに、明智も輝くことでちゃんと火花が散っています。

 いくら黒蜥蜴の一味だからって、部下が「青い亀」とか「黄色い鰐」っていうのがご愛敬。これって原作はどうなってたっけ? どちらかといえば乱歩というよりは三島の趣味っぽい感じがするのだけれど。

 早苗と雨宮の恋愛が、演劇の構成的には意味のあるところなのだろうけれど、物語的には取ってつけなのがちょっと残念。

 三島×乱歩ほか座談会など、資料も充実しています。

 岩瀬家の秘法〈エジプトの星〉を狙う美貌の女賊・黒蜥蜴と名探偵・明智小五郎の対決。「追われているつもりで追っているのか/追っているつもりで追われているのか/……最後に勝つのはこっちさ」。だが、二人の間にはいつしか淡い情愛が――。江戸川乱歩の原作にもとづく三島由紀夫の頽唐美とロマンあふれる名作戯曲を初文庫化。(裏表紙あらすじより)
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