『幽』008【京都怪談/決定!第2回幽怪談文学賞】

「京都に潜む〓か」綾辻行人×森見登美彦
 ふつうにふつーの会話なので二人のファンなら楽しく読めるのだけれど、たまたま二人が京大出身だというだけで、特集としては弱いどころではない。

「京都花街怪談」森山東
 ――怖い話どすか? はあ、それならここら辺にはたんとありますえ。何というても京都の花街は怪談話の宝庫どす。

 京都弁の語り、花街と怪談という取り合わせ。それだけで勝負あり(不戦勝だったのか不戦敗だったのかは言わずにおく)。
 

「古層の物語としての京都」西山克
 座談会と紀行文で加門七海が述べているとおり、「実は日本全国どこにでも、千四百年の歴史はある」し、「怪異というのは、多分、人跡未踏の地でも起こっているのだろうが、それを不思議とする人がいて、書き留める人がない限り、我々はそれを知り得ない」。いったい京都の何が?という話です。

「千年の都に隠された「怪異」を語る」西山克×加門七海×南美宜×東雅夫
 神主さんと民俗歴史学者と霊感女の座談会は噛み合っているのかいないのか、蓋を開ければ怪談話の会みたいになってます。座談会だから仕方ないけど、濃いメンバーのわりには……てところかな。

「エムブリヲ奇譚」山白朝子
 ――岸辺に点々と、白くてちいさなものがおちている。どうやら生き物のようだったが、小指くらいの大きさである。はたしてこれらはなんだろうか。「きみ、そいつはエムブリヲというやつだよ」

 旅が始まるや否やすでにして「双子しか生まれない村」とか「馬ばかりをうやまっている村」とか、不思議な世界に迷い込んでしまっています。エムブリヲはそんな奇談の一篇に過ぎません。にもかかわらず和泉蝋庵が奇談蒐集家や草双紙作家ではなく、旅行ガイド作家だというズレ方がポイント。怪異を求めて旅をするのではなく、旅をしてみたら外にはこんな不思議な世界もありました的な、文明発展時代の博物学的世界観のたまもの。今でいったら、火星にはタコ型宇宙人がいるかもしれない的なものでしょうか。未知のものを当時の最新科学で解説したらこんなへんてこな生き物が誕生してしまいました――平賀源内とかならこんな話も実際に書いておりかねない。
 

「日本の幽霊事件8 火除橋の怪火」小池壮彦
 高札を模しているというのは、よく考えると凄いセンスだよな。洒落がわかるというか、神をも恐れぬというか。

「記憶/異変」8 高原英理
 今回は『大和怪異記』『古今犬著聞集』『古今百物語評判』や著者が幼いころ読んだ本などから、人体の変異話。顔のないのはのっぺらぼうだけれど、こうしてみると顔の変異にはいろいろある。そしてなるほど轆轤首も人体変異なのだ。

「短歌百物語」佐藤弓生
「一本の樫の木やさしそのなかに血は立ったまま眠れるものを」寺山修司
「ひとりして喫む焔の紅茶晩冬の蕃らぬ庭にうつしみはあり」佐竹彌生
「「潮騒」のページナンバーいずれかが我の死の年あらわしており」大滝和子
「死ぬまへに孔雀を食はむと言ひ出でし大雪の夜の父を怖るる」小池光
「足の無き雛人形は座るなりガスストーブの燃えいる部屋に」吉川宏志

「いづくより生れ降る雪運河ゆきわれらに薄きたましひの鞘」山中智恵子
潮騒の〜」の歌はそれだけでも怖いのに、添えられた佐藤弓生の文章がまたいっそう怖い。図書館の本の「ページの端の折り目が、だんだん前へ、数の若い方へと移動してきている」。吉川宏志の歌は、本当はたぶん怖くない。なのに佐藤弓生セレクトになった途端に不気味このうえない。佐竹彌生の歌はかっこいい。佐藤弓生は王とか貴族とか書いているけど、わからんでもない。

「決定!第2回幽怪談文学賞

「あちん」雀野日名子
 ――その街では、雨の日にお堀ばたをを歩くと、オホリノテが影を喰うと言われている。雨の日にお堀に姿を現す、顔半分が潰れ、片腕がない老人・鉄五郎は、かつて影を喰われたのだという。
 怪談というより、よりにもよって苦手なニューロティック・ホラーっぽい作品でした。語り手が、迷信を信じていないくせにマイナス思考で思い込みが激しい。オホリノテや鉄五郎よりもそこがねとついた。わたしは残念ながら、こういう、厭な人の心、をも怪談として楽しめる人間ではない。

「竜岩石」勝山海百合
 ――大富豪・李大人の屋敷で働くことになった少年・李衛は、主人の依頼で訪れた白家で、壁から泳ぎ出てくる魚を目撃する。その白家の娘が李衛に執着しているというのだが……。
 京極氏が述べているように、中国志怪小説のテイストあふれる好短篇。「実話怪談」「創作怪談」という『幽』のカラーからは外れているかもしれないが、江戸や中国古典までふくめた怪談を愛するものにとっては、これも充分に「怪談」である。連作短篇の体裁ではあるものの、第一話目が怪異ではないというのも人を食っていていい。

「怪談考古学7 都市ノ巻」庄司大亮・高谷知佳・土井浩
 日本じゃなくてギリシアを扱った「古代ポリス編」、中世の怪異と江戸期における平安怪談復興を『オルレアンのうわさ』で読み解く「中世京都編」、『電脳コイル』から民俗学的発想が飛翔する「近未来大黒市編」。

「スポットライトは焼酎火8」姜竣
 紙芝居かぁとあまり期待せずに読んだのだけれど、紙芝居屋さんじゃなくて学者さんなので、途中からは紙芝居に限らない怪談を含むサブカルチャー文化全般についての話に広がっていって読みごたえたっぷり。紙芝居=ジャンルミックス=メロドラマ=韓流ドラマという指摘も面白い。

「日本の古き神々を訪ねて 氣比神宮・籠神社」岩崎眞美子
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