「過去が自在に変えられてしまう世界で、探偵に何ができるというのだろう?」という惹句から、ハードSF+本格ミステリみたいなのを期待していたのだけれど、実際にはSFアクション+俗流ハードボイルドだったというところで肩すかしを食ってしまいました。
SFの科学理論に当たるところにもミステリの解決編に当たるところにもあまり筆が割かれていないので、印象に残るのがほとんど「ハードボイルドだど」な箇所だけに留まってしまいます。だから異世界を舞台にした通俗ハードボイルドとしては面白いのだけれど、本格的なSFやミステリとしてはやや物足りません。
なので通俗ハードボイルドとしての感想を。冴えない中年男と謎のグラマー美女というお定まりの設定で、探偵が始終へらず口ならぬへっぽこ口を叩いて歩きまわって襲撃されてと――シリアスとコミカルのバランスもほどよい連作短篇集。異世界ハードボイルドとして楽しむべきで、決して「空前絶後の時間SF」とか前記の惹句とかを期待して読んではいけません。
ただ一人の富豪が所有する、この世に一台きりのタイムマシンが世界を変えてしまった。過去に干渉することで突然、目の前の相手が見知らぬ人間に変わり、見慣れた建物が姿を変えてしまうのだ。おれは私立探偵。だが、常に歴史が変わる――現在が変わりつづけるこの世界で、探偵に何ができるというのだろう。そのおれが、ある日、当の富豪に雇われた。奴は何者? 空前前後の時間SF。(裏表紙あらすじより)
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