『S-Fマガジン』2008年7月号No.627【アーサー・C・クラーク追悼特集II】★★★★☆

 気合いが入っているなあ。名作短篇の新訳を三篇+オマージュ短篇を二篇も掲載してまで増ページ増価格特集するとは、気合い度が違います。

「My Favorite SF」(第31回)瀬名秀明
 今月号はこのコーナーもクラーク特集。『未来のプロファイル』についての「嫌いな「SF」」の「好きなSF」。
 

「太陽系最後の日」アーサー・C・クラーク中村融(Rescue Party,Arthur C. Clarke,1946)
 ――破滅に瀕している星系から文明を救出すべく、銀河調査船は第三惑星へと急行するが……。(袖あらすじより)


 確かに名作ではあるがちょっと前に『贈る物語』で読んだばかりなので、新訳といえども今回はパスです。
 

「星」アーサー・C・クラーク/小野田和子訳(The Star,Arthur C. Clarke,1955)★★★★☆
 ――イエズス会士の天体物理学者が、地球から三千光年離れた惑星で発見した事実とは?(袖あらすじより)


 前号掲載のエッセイに書かれたアイデアの小説版。科学的興味にあふれたエッセイと比べると、本篇は宗教心がどうも嘘くさいというかわざとらしいというか、イエズス会士を語り手にしたのは(アイデアとしてはわかるが)やりすぎだったのでは。
 

アーサー・C・クラーク・インタビュウ」内田昌之(Q & A with Arthur C. Clarke,2007)
 いい意味で頑固な感じ。
 

「追悼評論/追悼エッセイ」巽孝之松浦晋也坂村健梶田秀司野田篤司・平岩徹夫
 エッセイの方はサイエンス・サイドからの寄稿なのだが、やはり質量ともにメインは巽孝之の評論「ある思索小説家の旅」です。

「黎明期の出会いII」野尻抱介
「青い星まで飛んでいけ」小川一水
 いずれもクラーク追悼オマージュ短篇。
 

「太陽からの風」アーサー・C・クラーク酒井昭伸(The Wind from the Sun,Arthur C. Clarke,1964)★★★★★
 ――太陽光をいっぱいに受けて進む地球−月間レース。その勝敗の行方を左右したのは……。(袖あらすじより)


 こういうのを読んでしまうと、野尻抱介などはむしろサービス過剰というか物語性が豊かというか、飾らない真っ向勝負のSFというものの魅力を痛いほど感じる。
 

アーサー・C・クラーク全邦訳著作解題」

アーサー・C・クラーク年譜 完全版」
 クラーク追悼特集はここまで。
 

「SFまで100000光年 58 寸止め海峡にて」水玉螢之丞
 ハハハ(^^;。水玉螢之丞でもあれはダメでしたか。。。
 

「震える岩」Hiroyuki Kuramoto《SF Magazine Gallary 第31回》
 

「『エア』はあなたの人生をも変える?」
 プラチナ・ファンタジイの新刊『エア』の紹介ページ。いつの間にか出版されていたらしい。全然気が付かなかった。
 

「SF BOOK SCOPE」
『深海のYrr』、『限りなき夏』といったマストのほかには、ケヴィン・ブロックマイヤー『終わりの街の終わり』。タイトルがありがちなので見ぬふりをしていたのだけれど、「透明な筆で描かれる」とか「明るく静かな絶望」とか、好きそうな匂いがする。

ジョージ・D・シューマン『18秒の遺言』は、「死者に触れることで、その臨終直前十八秒の記憶を読み取る能力」という「よくある設定」ながら、能力の持ち主が盲目のため自分の目では確認できないうえに、読み取れるのは実際の映像ではなく死者の頭の中のイメージなので、それを解釈=推理する必要がある――とかいうけっこう面白そうな作品。

◆世界文学全集のブルガーコフ巨匠とマルガリータ牧眞司氏が紹介。「SFを超える想像力の文学はあるか?」と聞かれたら、『百年の孤独』と本書を挙げるそう。
 

「地球移動作戦」01山本弘
 ――地球に迫る、史上最大の危機! 惑星規模の巨大ミッションの行方は――。

 新連載。
 

「魔京 第13回」朝松健

「霊峰の門 第14話 乱風楓葉 弐」

戦闘妖精・雪風 第三部 アンブロークン・アロー神林長平

「おまかせ!レスキュー Vol.121」横山えいじ 

「SF挿絵画家の系譜 28 濱野彰親大橋博之
 

「サはサイエンスのサ 161」鹿野司
 バグのこと、及び人間の「根源的な非論理性」について。「ロボットが学習」するってのが当然といえば当然なんだけれど、気持ち悪いっちゃ気持ち悪いよなあ。

「家・街・人の科学技術 19」米田裕「光学式マウス」

「センス・オブ・リアリティ」
「まさかあなたがお金もちとは」金子隆一……面白いことやってるなあ(^^;。SFを地で行ってるよ。巨大加速器ブラックホールを作れるか否かについての侃々諤々。
「この孤独と絶望」香山リカ……親が引き籠もりの我が子を殺すという事件はほとんど報道されない、という指摘にはけっこう虚を突かれた。
 

「近代日本奇想小説史 第69回 落穂拾い2」横田順彌
 今回紹介される小説は、内容自体はつまらないのだけれど、ちょっと類をみない。女にうつつをぬかす才能ある技術者の目を覚ますため(だけ)に書いたモデル小説。しかも虫が会話する意味不明の前書き付き。
 

「MAGAZINE REVIEW」〈アナログ〉誌《2007.12〜2008.3》東茅子
 今回は面白そうな作品が多かった。デイヴィッド・W・ゴールドマン「再会」Reunion,David W. Goldman)は、植民惑星の私立探偵が重要な装置を探す依頼を受ける話。「主人公の青春時代への複雑な思いがいい雰囲気を作り」「SFだからこその意外な装置の隠された場所もなかなかのもの」とのこと。ジェフリー・A・ランディス「鏡のなかの男」(The Man in the Mirror,Geoffrey A. Landis)は、小惑星で見つかったまったく摩擦のない鏡面に足を滑らせ出られなくなってしまった男の話。「解決方法のおもしろさは、ハードSFファンにぜひ読んでいただきたくなるものだ」そうです。そのほかバリー・B・ロングイヤー「盗まれたラブラドゥードル事件」(The Purloined Labradoodle,Barry B. Longyear)は「愉快で楽しい」ジャグ&シャド・シリーズの新作。ハワード・V・ヘンドリクス「祖父のパラドックスの結び目」(Knot Your Grandfather's Knot,Howard V. Hendrix)は「祖父の遺品の中で、未来の自分から自分にあてた手紙を見つけてしまう……」「アインシュタインも登場するタイムトラベルSF」。
 

「乱視読者のSF短篇講義」若島正(第9回 アーシュラ・K・ル・グウィン「オメラスから歩み去る人々」)
 なるほど論文を改稿したものだけあって、既存のル・グウィン批判をもその都度引いて論じていて、まとまりもあって論文っぽい。優れた評論ってのはそれを読むだけで感動するんだよな。
 

大森望のSF観光局」19 人生に必要なことはメリルに学んだ(その1)
 SFファン交流会のときに選んだ大森・柳下毅一郎樽本周馬三氏の60〜70年代SFベスト。そしてジュディス・メリルの話。『年刊SF傑作選』『SFに何ができるか』をはじめとした魅力と業績の数々。
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