『Death Out of Thin Air』Stuart Towne(Clayton Rawson),1941年。
ほんとうは★五つなんて付けすぎなんだけれど、思いのほか良かったので付けてしまいました。
ロースンの長篇は、真相解明の手際が下手というか、それこそ文字どおり手品のタネを解説しているだけのような物足りなさを感じた記憶があるのだけれど、本書は中篇ということもあってか、そういう不満はなかった。ミステリ的なトリックだけではなく、ストーリーテリング的な引っかけの叙述にも気を遣っているのが微笑ましい。二篇どちらにも言えることだけど、本格ミステリ的なごちゃごちゃがキャラクター小説的なノリのよさを殺してないのもけっこう高ポイント。
「過去からよみがえった死」(Death from the Past,1940)★★★★★
――地上五階、閉められていた窓は大きく開き、そこからコウモリが空へと羽ばたいていった。部屋にいた若い女性は、「コウモリの鳥小屋……」と言い残して死んだ。彼女の喉に、小さな赤い傷が残された。コウモリが殺したとしか考えられない状況に疑いの目は隣室にいたドン・ディアボロにおよぶ。すべてを明らかにするために、ディアボロもまた、虚空へ消えた……。(カバー袖あらすじより)
死体があって→解決があってという古式ゆかしい本格ミステリというよりは、小出しに山場を繰り出してくるサスペンス・タッチなので、気楽に楽しめる。窓しか逃げ場のない密室から逃げ出した殺人巨大コウモリなどという、はったりにしても無茶苦茶な(二十面相級!)事件を書いちゃう著者のサービス精神に拍手。ところがそのはったりの無茶苦茶さ加減に麻痺していると、足下をすくわれる。むむ、巧い。
「見えない死」(Death from the Unseen,1940)★★★★★
――銃声を聞いたチャーチ警視がドアから飛び込むと、潜入捜査していたヒーリー巡査部長が殺されていた。巡査部長。椅子、机、帽子掛け、書類棚、ゴミ箱、そして警視。ほかに何もない! そのとき背後で、あざけるような声が聞こえた。「また会おう、警視!」警視は振り返った。ドアが自分の意思で閉まったかのように閉まるところだった。その後、透明人間による盗難予告が相次ぎ、警察とディアボロやそれぞれ躍起になって防ごうとするが……。
これも前作同様、不可能に見えることと実際に不可能なことの違いが真相を導くのが巧い。しかも同じ「見えない人」でも状況に応じてさまざまなトリックが使われていて、この徹底ぶりはすごい。前作の霊媒の縄抜けトリックもそうだったけど、本篇で描かれるディアボロの金庫からの脱出方法も、意外な盲点を突いていて、単純なだけに(馬鹿らしいような気もするが)あっと言わされた。
予想よりもかなり面白かったので、入手困難という残り二篇も翻訳してほしい。というかロースン自体をもっと翻訳してほしい。
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