『ぐるぐる猿と歌う鳥』加納朋子(講談社ミステリーランド)★★★★☆

 ミステリーランドには珍しく短篇集(連作長篇と言えなくもないけど)。

 消えた地上絵の謎とか、急によそよそしくなった同級生の謎とか、いちおう謎ものの体裁はあるし、真相のための伏線もしっかりしてはいるのだけれど、加納作品のなかでもとりわけ謎解きミステリっぽさは薄い。

 ミステリ的な大きな謎ではなく、転校生が慣れない環境と不思議な少年に振り回されていくうちに、いつの間にか謎も解けて……という感じ。ミステリーランドのなかでは、ミステリーというくくりを取っ払ってもいちばん児童文学らしい作品だと思います。加納作品らしく(?)あったかい読後感だし。

 どちらかといえば「パック」というあからさまな名前を持った謎の少年とともにめぐる日常の冒険ものかな。

 というか、こういうあからさまな名前をつけるところがすでにミスディレクションなのかもとか思ったりもする。存在しないあやちゃんの謎の方は、幻じゃなくてちゃんとミステリ的な真相があるんだろうとか思ってたくせに、パックの方は完全にそっち系かと思っちゃってたもんなー(^^。

 そういうのも含めて、「見方を変えれば」という解決/ミスディレクションに共通するミステリの基本がしっかりしてて、小粒なんだけど読んでいて感心しきりでした。

 第三話で活きてくる、竹ちゃんの見た目に関する大胆すぎる伏線には笑ってしまった(^^。あからさまで人を食ったところがディクスン・カーみたい。

 五年生に進級する春、森《シン》は父親の転勤で東京から北九州へ転向することになった。わんぱくで怪我は絶えないし、物は壊すし、友だちは泣かせるしで、いじめっ子の乱暴者というレッテルをはられていた森の転校を聞いても、先生どころかクラスメイトのほとんど誰も残念がってはくれなかった。そんな森だったが、引っ越し先の社宅の子どもたち――ココちゃん、あや、竹本兄弟、パックとは不思議に気があった。彼らは森をまるごと受け入れてくれた。しかし森は次第に感じていた。この社宅には何か秘密がある。もしくは謎が……。(函裏あらすじより)
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