『妖怪の理 妖怪の檻』京極夏彦(角川書店)★★★★★

 エッセイっぽいものかと思っていたら、けっこうちゃんとした論文でした。「妖怪」という言葉をめぐる考察だけでも二百ページ、圧巻です。

 圓了や江馬務柳田國男といった人々がどんな意図を持ちどんな意味で「妖怪」という言葉を使っていたのかを、くどいほど丹念に読み解く過程は、「妖怪」という言葉をめぐる論であるだけでなく、彼ら研究者についての考察にもなっています。

 わたしはこれまで漠然と、昔は〈妖怪=怪異〉だったけど今は〈妖怪=日本のお化け〉くらいに理解していたのですが、一語をめぐる思惑に嘆息しました。

 ここまで読み解けるものなのかと、感心の一言です。

 「妖怪」という言葉が表わすものについての変遷史にもなっているので、単純に怪奇もの好き向けのガイドブックとしても活用できます。言葉どおりの意味での「ガイド」「案内」――妖怪という言葉が現在とは違う使われ方をしている文章を読む際の、道しるべとして機能してます。読むときに勘違いせずに済みますもんね。

 後半は水木しげるの功績について。いかに通俗的妖怪という概念が浸透していったか、という「妖怪のなりたちについて」と、いかに水木しげるが才能ある漫画化かだけを偏執狂的(といってもいいほど)に考察した「妖怪の形について」。

 キャラクターとしての〈妖怪〉が生まれたのって驚くほど最近なんですねえ。

 単純に、油すましの元ネタとか、コナキジジの正体とか、知って楽しい豆知識もありました。
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