『赤と黒(下)』スタンダール/野崎歓訳(光文社古典新訳文庫)★★★★★

 『Le Rouge et le Noir』Stendhal,1830年

 上巻以上に魅力的な人物がたくさん出てきます。暇つぶしにジュリヤン相手に気まぐれを起こすラ・モール侯爵とか、間違えて喧嘩をふっかけられるボーヴォワジ従男爵とか、一緒に馬で散歩する変り者のノルベール伯爵(ラ・モールの息子)とか、舞踏会の花の現代っ娘マチルド(ラ・モールの娘)とか、マチルドの婚約者クロワズノワ侯爵とか。

 マチルドが出てきたことで恋愛パートにも面白さが出てきました。

 村では必要以上に角が立っていた印象のあったジュリヤン・ソレルですが、お体裁な貴族社会というのは案外性に合っているようで、表面下での鍔迫り合いと煩悶が俄然生き生きとしてきました。

 階級闘争みたいな様相も比較的薄まり、ただのプライドの強い若者という普遍性を獲得した感もあります。何ていうか、金持ち喧嘩せずというか同族嫌悪というか、貴族に対する反感と故郷のブルジョワに対する反感がまったく違うんですよね。まあ、それも普遍的といえばいえるわけで、遠くの星はきれいに見えて、身近なものは醜く見えるものです。実際のところ貴族と成り上がりじゃあ心の余裕も違うのでしょうし。

 でもだからこそそのおかげで、下巻のジュリヤンはやたらと熱い等身大の若者になれました。恋に悩んだり、政治に対してわかった風なそぶりをしたり、破滅的な生き方をかっこいいと思ったり。

 悩むっていうのがこんなにも面白いものだとは思わなかった。そんなふうにすら思えてくる名作です。

 神学校を足がかりに、ジュリヤンの野心はさらに燃え上がる。パリの貴族ラ・モール侯爵の秘書となり、社交界の華である侯爵令嬢マチルドの心をも手に入れる。しかし野望が達成されようとしたそのとき、レナール夫人から届いた一通の手紙で、物語は衝撃の結末を迎える!(裏表紙あらすじより)
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