『ミステリマガジン』2008年8月号No.630【幻想と怪奇 作家の受難】★★★☆☆

「バーカー蒐集家」キム・ニューマン宮脇孝雄(The Man Who Collected Barker,Kim Newman,1990)★★★☆☆
 ――アーカム・ハウスから出た本はみんな集めたよ。どれも署名つきだけど、全部、目の前で著者にサインしてもらったものなんだ。ああ、あれは一番大事な場所なんだ。バーカーを置いてあるんだよ。

 懐かしのモダン・ホラー作家に捧げたオマージュ。本をコレクターズ・アイテムとしてしか扱わない蒐集家という登場人物ともども、グロテスクで不快な嫌らしさに満ちています。
 

「小人たちと働いて」ハーラン・エリスン中村融(Working with the Little People,Harlan Ellison,1977)★★★★☆
 ――十九年前、ノア・レイモンドは最後のファンタジイ小説を書いてしまった。それ以来、四百を越す秀作が、彼の名のもとに発表されてきた。だれも知らないのは、レイモンドがそれを書いたのではないことだった。書いたのはグレムリンだった。

 解説によれば、一時期新作を発表しなかったR・B(レイ・ブラッドベリ?)に対する励ましとして書かれたと思しきそうだ。おなじみ働き小人の話なのだが、なにゆえ正体がグレムリンなのかと思ったら、なるほどね。日本だったら口裂け女とかトイレの花子さんとかになるのかな。
 

「怪奇写真作家」三津田信三★★★☆☆
 ――ふと目についた画廊に入ったとき、開かれていたのが沐野好の写真展だった。被写体はどれも、いわゆる心霊スポットと呼ばれる場所ばかりのようだった。水木が編集者だとわかると、写真集の刊行を猛烈に売り込み始めた。

 サイモン・マースデンや『新耳袋』など実在の事物を散らしつつ、アイデア自体も某有名作を思わせる、これこそ怪奇という言葉がふさわしい怪奇小説
 

「一八四九年、九月末、リッチモンドフリッツ・ライバー中村融(Richmond, Late September, 1849,Fritz Leiber,1969)★★★☆☆
 ――男は口髭を控えめに生やしていた。「マドモワゼル、よろしければ一献さしあげたいのですが?」女はフランスなまりの目立つ声で、「まあ! びっくりしましたわ!」

 簡単なポー作品評にもなっている、ポーへのオマージュ。小説というよりポー評として直接的すぎるきらいはあるが、それだけにこんな特集でもなければ訳されなさそうなのでひとまず嬉しい。
 

「ベストセラー保証協会」ジョー・R・ランズデール/高山真由美訳(Bestsellers Guaranteed,Joe R. Lansdale,1985)★★★☆☆
 ――今となっては這いつくばってブーツをなめろと言われたって屁とも思わない。とにかく本を売らなければ。世間におれの存在を知らしめるのだ。コネがほしかった。

 お決まりの話ではあるのだけれど、この手の作品には珍しく、協会に「理由」を持たせるところが異色じゃなかろうか。神を前にして良心を取り戻し敢えなく……という皮肉な結末を導くための設定なのかもしれないけれど。
 

「あなたにあいたい 幽霊執事4」坂田靖子
 ――

 一見したところ「作家の受難」というテーマと無関係なんだけれど、主人公は作家という設定だったっけかな?
 

「棒」カール・エドワード・ワグナー/中村融(Sticks,Karl Edward Wagner,1974)★★★★☆
 ――棒を縛りあわせて作った枠組みのようなものが、小川べりの小さな石塚から突きだしている。なんの目的があるのかさっぱりわからない。不愉快なことに不快な磔刑像が連想され、石塚の下になにがあるのだろう、と疑問が湧いた。

 失われ(かけ)た邪宗を求めるという設定のおかげで、展開にワンクッションあって「ほう」と感じた。得てしてカルトものというのは読んでいて気分のよいものではないのだが、これは実在のイラストレーターをモチーフにした棒のオブジェの不気味さが際立っている。
 

「幻想作家についての覚え書き」皆川博子

「作家の受難/解説」中村融
 

「C・マッカーシーの最新作『ザ・ロード』刊行」

「迷宮解体新書8 三津田信三」村上貴史

「私の本棚8 小路幸也

「私もミステリの味方です8 成田一徹」
 

「読む!「インテリジェンス」」佐藤優
 連載かと思ったら特別寄稿なのか。よくよく読むとハヤカワ文庫で「読む!「インテリジェンス」」フェアを開催していて、その解説ということらしい。
 

「独楽日記 第8回 リボルバー佐藤亜紀
 映画『リボルバー』について。クソミソに言ってます。
 

「ミステリ・ヴォイスUK 第8回」松本祥子

「日本映画のミステリライターズ 第24回 「黒沢組」と『天国と地獄』」石上三登志

「ヴィンテージ作家の軌跡 64」直井明

「書評など」
◆洋書からは『The Fault Tree』Louis Ure。盲目のヒロインが、殺人の逃走現場を「目撃」されたと犯人に誤解され……という話だ。

◆映画からは佐藤氏も取り上げていたリボルバー。言い方は違えど、万人が大満足という類の映画ではないみたいだ。

◆今回は「これは!」というのが少なかった。ランズデール『ラスト・エコー』ヘンリー・セシル『サーズビイ君奮闘す』フリーマン『ポッターマック氏の失策』、ミッチェル『ワトスンの選択』、桐野夏生東京島』、山口雅也キッド・ピストルズの最低の帰還』、長島槇子『遊郭のはなし』、鹿島茂『子供より古書が大事と思いたい』あたりは余裕があれば読みたいんだけれど。

「文芸とミステリのはざま」風間賢二
 『世界の測量 ガウスフンボルトの物語』ダニエル・ケールマン。ちょっと軽めのコミック・ノベルだそう。

「SFレビュウ」大森望
 『限りなき夏』クリストファー・プリースト。これは説明するまでもないでしょう。

◆周辺書からは北村薫の創作表現講義』、椎名誠『「十五少年漂流記」への旅』の2冊。どちらも著者流の本の「賞味」術の話らしい。
 

「藤村巴里日記 第16回」池井戸潤

「夜の放浪者たち 第44回=浜尾四郎「彼が殺したか」(後篇)」野崎六助

「新・ペイパーバックの旅 第29回=バンダム雄鶏号の挑戦」小鷹信光

ポルトガルの四月 第11回」浅暮三文
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