読む前は、別に新訳しなくても白水社の新訳カフカ・コレクションでいいんじゃないの?と思っていたのだけれど、実際に読んでみたら全然違う。ドイツ語は読めないからあれなんだけど、訳文を読み比べただけでも、池内訳はかなりざっくりしてます。プロの翻訳者ならある意味、池内訳のように訳すのは当たり前でしょう。原文に忠実でありながら直訳とも違う読みやすい訳文の本書に拍手。Franz Kafka。
「判決」(Das Urteil,1913)★★★★★
――ゲオルクは年老いた父親に言った。「ペテルブルクにいる例の友だちに、婚約のこと知らせることにしたんだ」「相談してくれたのはりっぱなことだ。だがな、嘘をつくな。ろくでなしめが」
モラトリアムな偽善青年に突きつけられる文字通りの判決。父親によって暴かれる息子の後ろめたさの一つ一つにどきりとさせられます。
「変身」(Die Verwandlung,1915)★★★★☆
――ある朝、不安な夢から目を覚ますと、グレーゴル・ザムザは、自分がベッドのなかで馬鹿でかい虫に変わっているのに気がついた。
家族が慌てず騒がず普段通りに生活していたような記憶があったのだけど、読み返してみたらみんなパニクっていました。家族の側から見れば、息子(兄)が失踪して代わりに寝ている巨大な虫を息子(兄)と思い込んで……という、まあ虫というのは極端にしても、死んだと思いたくないので息子だと思おうとするのはよくある話。ところがグレーゴルに自意識があるおかげで、かえって滑稽というか、例えば「アカデミー」↓でサルの視点で語られたみたいに、虫の視点で語られてるという感じです。
「アカデミーで報告する」(Ein Bericht für eine Akademie,1920)★★★★☆
――アカデミーのみなさん。光栄にもこのアカデミーに招かれ、以前ぼくがサルだったときのことを報告するように依頼されました。
サルが報告する自由と出口。諷刺の定番っちゃあ定番なんだけど、批評は望んでいません、報告するだけなのです、というエクスキューズにニヤリ。
「掟の前で」(Vor dem Gesetz,1920)★★★★★
――掟の前に門番が立っていた。田舎から男がやって来て、掟のなかに入れてくれと頼んだ。だが門番は言った。まだ入れてやるわけにはいかんな。
わかるようでわからない。それもタイトルを「門の前で」から「掟の前で」にしただけでまったくわからなくなってしまう。何かの真理のようでもあり、直球の寓話のようでもあり。
----------------
『変身/掟の前で』
オンライン書店bk1で詳細を見る。
amazon.co.jp で詳細を見る。