『火の接吻』戸川昌子(講談社ノベルス)★★★★☆

 著者の『大いなる幻影』が好きだったのでかなり期待して読んだのですが、ウールリッチを思わせるコテコテのセンチメントや寂寞感は期待通り。「消防士」「放火魔」「刑事」の三視点が微妙にリンクし微妙に食い違うため、いったい誰の記憶や事実認識が本当のことなのかわからず、幻のような雰囲気に加えて否が応でもサスペンスが高まります。

 ただし真相・真犯人像というのが、サスペンスや謎解きとは相性の悪いタイプなので、終盤ちょっと釈然としない。揺るぎない妄執こそ作品世界にぴったりの動機なのだが、この手の作品に組織(というか組織的なからくり)が絡んでしまうと、魔法使いや催眠術が真相だったみたいながっかり感を感じてしまうのです。

 そこが残念。

 昭和三十三年、洋画家・松原和彦の自宅で火災が発生。病気療養中の松原は逃げ遅れて焼死する。出火の原因は三人の幼稚園児の火遊びとされた。それから二十六年、成人した三人の幼稚園児は、それぞれ消防士、刑事、保険会社の重役となり、連続放火事件をきっかけに再会するが、奇妙な殺人事件に巻き込まれる……。(裏表紙あらすじより)
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