『奇想の江戸挿絵』辻惟雄(集英社新書ヴィジュアル版)★★★★★

 まずは表紙のイラストをご覧ください。

 北斎の手になる読本の挿絵なのですが、初めてこの絵を見た方の多くは、帯に書かれた横尾忠則という名前にも引きずられて、これは現代のデザイナーが北斎の絵を元にコラージュしたものに違いない、と思うのではないでしょうか。

 なにせあまりにもパンク。あまりにもぶっ飛んでいます。

 わたし自身この表紙を見て、またずいぶんと濃ゆいデザインにしたもんだな、などとノーテンキにも思っていました。

 ところが本書161ページを開いて、大げさではなく本当に、思わず「うおっ!」と声が出てしまいました。何しろそこに掲載されている北斎の原画は、表紙のものと寸分違わぬものだったのですから。背景の白地を銀地にし、四隅を額のように縁取って反転させている以外は少しも手を加えられていません。

 北斎ファン(及び馬琴ファン)にとっては、何をいまさら、なのでしょうが、教科書&北斎漫画でしか北斎を知らない人間にとっては、この世がひっくり返ったようなショックでした。天才って本当にいるんだなあ。そうとしか言いようがありません。

 現代の漫画の技法を先取りしつつ、一枚の絵としては明らかに現代の漫画を超えてるんですから。

 確かに江戸の挿絵のすべてがこれほどの出来だったわけではないようです。本書で紹介されている挿絵のなかでも表紙の絵はトップクラスに入る完成度・インパクトを持っており、ほかの絵のなかにはちょっと落ちるものも見受けられます。北斎自身の絵ですら、そうです。

 それでも、絵として見るに耐える作品がこれだけ集まるとさすがに圧倒させられますし、そのいちいちが規格外なので、新書なのにたいへんなボリューム感がありました。

 首を運ぶ野良犬や、首級と狐火、天井の足跡、口から吹く鼠、ほとばしる108人の変化などが、とりわけ印象に残りました。
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