「The Folding Doors」Marjorie Bowen,1912年。★★★★☆

 フランス革命期を舞台にしたマージョリー・ボウエンの短篇。

 王妃を救うという共通の目的が縁で知り合った元貴族と人妻。ホールの音楽を聴きながら、ド・ジョレはドアを開けようとした。ドアの向こうにはオルタンスが待っているはず。と、そのとき、デュロソワが現われた。オルタンスの夫だ。「オルタンスは具合が悪いみたいだ……果物ナイフで指を切ってしまったから、ハンカチで縛ってもらおうと思ったんだけどね。ところでオルタンスは綺麗だと思わないか?」

 怪談作家マージョリー・ボウエンを期待していたので、普通小説なのかと思って気が気じゃありませんでした。結局、普通小説といえば普通小説、怪談といえば怪談、かな。静かな焦燥感、まどろむような不安を書かせたら、この人はほんとうに巧みです。水の膜を通して世界を見ているような、不思議と透明感のある、でも水中で知覚が塞がれ、厚い層を通して見聞きしているような不自由さ。

 あるいは単なる痴話話に陥りかねないところを、革命期のフランスを舞台に、妻がいる部屋の厚いドアのこちら側で夫と愛人が一見関係ない会話を交わすという場面が、おしゃれ且つスリリングです。

 これは Project Gutenberg で読める、確か。


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