『ミステリマガジン』2008年9月号No.631【ミステリ・アワード大集合!】★★★☆☆

 受賞作特集。期待してなかったわりにはよかったかな。

「ゴールデン・ゴーファー」スーザン・ストレイト/高橋知子(The Golden Gopher,Susan Straghit,2007)★★☆☆☆
 ――親友の死を知ったわたしは、ひたすら歩いた一夜を思い出す。

 MWA賞。現代アメリカ定番のライト・ノワール。こういう文学もどきは苦手です。
 

「白熱の一戦」ピーター・ラヴゼイ山本やよい(Needle Match,Peter Lovesey,2002)★★★★☆
 ――殺人がおこなわれたのは、ウィンブルドン1981の三日目、11番コートだった。事件の状況はぼくの口から正確にお話しできる。なぜなら、ボールボーイの一人として試合の場に居合わせたからだ。

 CWA賞。タイトルは洒落。前半は少年のころの思い出。それが洗脳・抑圧といったあたりから、最終的にミステリ的なところに落とす持って行き方がうまい。
 

「心にはそれなりの理由がある」オニール・デ・ノー/横山啓明(The Heart Has Reasons,O'Neil De Noux,2006)★★★☆☆
 ――雨の日に母子を拾った私立探偵。その母子は追われていて……。

 PWA(「アメリカ私立探偵作家クラブ」だそうだ)賞。甘々な私立探偵小説。主人公・悪役・脇役含めて魅力的な登場人物がいなかった。
 

「鼠の話」ドナ・アンドリューズ/島村浩子訳(A Rat's Tale,Donna Andrews,2007)★★★☆☆
 ――同居の老人を襲った不幸に復讐を誓ったのは……?

 アガサ賞。その名の通り鼠の一人称によるショート・ショート。鼠ならではの復讐(?)譚。
 

「父さんの秘密」サイモン・ウッド/操上恭子訳(My Father's Secret,Simon Wood,2006)★★★★☆
 ――父さんは、正確には秘密を持っていたわけではない。ただ、何も言わなかっただけだ。事務所の電話に僕たちが出ることは禁止されていた。僕は、父さんにそっくりだとみんなから言われていた。

 アンソニー賞。ノワールな成長物語。父の背中を見、やがて父を越えて行くというのは定番ですな。余計な感情が描かれていないために、言葉には出来得ないいろんなものがかえって伝わってくる。
 

「受賞エッセイ」今野敏長岡弘樹紀田順一郎最相葉月近藤史恵有栖川有栖小森健太朗ジョン・ハート、ミーガン・アボット、スーザン・ストレイト 
 

「迷宮解体新書9 鳥飼否宇」村上貴史

「私の本棚9 日暮雅通

「私もミステリの味方です9 ミステリチャンネル社長」

「紙の砦の“木鐸”たちの系譜」01 井家上隆幸「佐幕派ジャーナリスト」
 新連載。いきなり歴史書風に始まるから戸惑ったし、何だかわからないぞ。
 

「誰が少年探偵団を殺そうと。」01 千野帽子「ユルユルでいこう。」
 新連載。取りあえず今回は前口上のみ。
 

「お茶の間TV劇場」01 千葉豹一郎「シカゴ特捜隊M」
 新連載。リアルタイムでは見ていない層に面白さを伝えたいんだと思うけど、もどかしいかな。
 

「独楽日記 第9回 北米版GTAIV」佐藤亜紀
 PS3のソフト北米版GTAIVについて、いかにも佐藤氏らしいゲーム観だなあ。
 

「新・ペイパーバックの旅 第30回=読んで損なし安全保証の雄鶏印」小鷹信光
 

「書評など」
◆今月は何といってもハートリー『ポドロ島』です。願わくば売れまくって第二集、も出てほしいなあ。

◆メグレな『悪魔のヴァイオリン』、二時間ドラマな『ヴェルサイユの影』に続くパリ警視庁賞の邦訳フレデリック・モレイ『第七の女』は、「アフター・グランジェ」な作家だそうで、そうなると今回はパスしとこうかなぁ……と。今月は仏に加えて中もある。ダイアン・ウェイ・リャン『翡翠の眼』アメリカに移住した中国人経営学教授による私立探偵小説。英米以外の国の作品が紹介されるのはいいことです。

種村季弘フリードリヒ・グラウザー『老魔法使い』はてっきり幻想小説だと思っていたのだが、刑事ものだったのか。長崎出版のGem Collectionは装幀がお洒落に変わったためコンプリートしたくなって困る。エリザベス・デイリー『殺人への扉』はビブリオ・ミステリ。「幕切れが清々しく、後味のいい一篇」とのこと。原書房からはマイケル・イネス『霧と雪』

ルイス・フェルナンド・ヴェリッシモ『ボルヘスと不死のオランウータン』は、際物っぽいタイトルだからスルーしてたんだけど、「優れたミステリ」「密度はボルヘス作品のように濃い」そうだ。う〜ん、読んでみようかなあ。。。

◆ミステリーYA!の新作は松尾由美『人くい鬼モーリス』モーリス・センダックの「絵本へのオマージュとして書かれたファンタジックミステリ」とのこと。白黒の小っこい書影で見ると、装画が松尾たいこかと思ったら違った。加藤木麻莉でした。
 

◆「SFレビュウ」大森望
 あれ? 全然ノーチェックだったな。マイクル・コーニイ『ハローサマー、グッドバイ』。「男子学生のあいだで圧倒的な人気を誇った青春恋愛SF」だって。

『ニアミステリのすすめ』探偵小説研究会によって書かれた「一種の比較文学」。「息苦しいなあ」だそうですが、探偵小説研究会の書いたものを読んだことがあれば首肯できるだね。

◆洋書からはジャンカルロ・デ・カタルド「Il padre e lo straniero(父と異邦人)」。映画『野良犬たちの掟(犯罪小説)』の原作者で、その映画の原作小説は本国でベストセラーなのだとか。

12人の怒れる男がロシアでリメイクだそうです。
 

「夢幻紳士 回帰篇(第一話 蝙蝠)」高橋葉介
 夢幻紳士の新シリーズがスタート。今回は割と普通だ。
 

ポルトガルの四月」(最終回)浅暮三文

「ミステリ・ヴォイスUK 第9回 イアン・フレミング生誕百年」松本祥子

「日本映画のミステリライターズ 第25回 「内田組」と『飢餓海峡』」石上三登志

「ヴィンテージ作家の軌跡 65」直井明

「夜の放浪者たち 第45回=木々高太郎「完全不在証明」前篇)」野崎六助

「藤村巴里日記 第17回」池井戸潤
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