「五徳猫 薔薇十字探偵の慨然」★★★☆☆
――幼い頃に別れた母に二十年ぶりに会いに行った美津子は、昔隣人が飼っていたとおぼしき猫に導かれるように、実家を探り当てることが出来た。だが現われた母親の言葉は、「娘の名を騙って、何が狙いだい」というものであった。母を取って食った猫が化けているのではないかといぶかしんだ美津子は……。
本書は全般的に著者の悪ノリがエスカレートしてます。本篇の場合だと家政婦ネタで押しまくり(ちょっとくどかった(^^;)。
「雲外鏡 薔薇十字探偵の然疑」★★★★☆
――僕は両手を縛られビルの一室に監禁されていた。榎木津のせいである。扉から姿を現わした男は、若い者が勝手にやったことだから逃がしてやると言って、竹光のナイフで刺すふりをして逃げろと耳打ちした。僕はその通りにし、今はこうして無事に中禅寺のところにやって来たのだが……。
妖怪の蘊蓄がないのが残念。石燕の創作妖怪だから仕方ない。榎木津の無茶苦茶さが活きた(?)作品。敵役の人物キャラが戯画にしてもあまりにもひどくてげんなりしていたので、榎木津が出てきてくれるとほっとしました。いろいろごちゃごちゃと夾雑物はあるものの、ミステリとしては倒叙ものに分類することができるでしょうか。京極堂ものは基本的に探偵役が事件に関わることで新たな局面が動き出す現在進行形の作品なのですが、本篇と次の「面霊鬼」はその傾向が強くて面白い。
「面霊鬼 薔薇十字探偵の疑惑」★★★★☆
――隣家に泥棒が入った。盗まれたのは価値のない招き猫。もののついでに隣家のガラクタ整理を手伝わされているうちに見つけたのは、封印され開けるべからずと書かれた桐箱だった。待古庵に見せに行ったついでに榎木津の事務所まで用を頼まれ、扉を開けると益田と刑事の青木が向かい合って座っていた。益田は連続窃盗事件の容疑者になっているらしい……。
著者も京極堂も遊んでます(^_^;。招き猫から呪いの来歴まで、悪ふざけが楽しい一篇。いわば「黒幕もの」とでも称すべき連作短篇のはずなのですが、すっかりおちょくられていて、黒幕も形無しです。「雲外鏡」と本篇は言うなれば楽屋落ちみたいなものなのですが、犯人側が(無駄に)凝ってくれるので、謎を解き明かされたミステリの醍醐味も堪能できます。悪ふざけもここまで徹底的にふざけてくれると、読む方も存分に楽しめました。
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